ぐだぐだくらぶ

ぐだぐだと日常を過ごす同級生たちによる
目的はないが夢はあるかもしれない雑記
「ぐだぐだ写真館」、始めました

キル・バレンタイン①

2010年06月02日 22時49分36秒 | 小説
俺は今日もいつも通り、学校への道を歩いていた。



今日は別に祝日でも何でもない、普通の日だ。

ただ、周りにはどことなく浮ついた雰囲気が漂っている。


学校へ向かう女子の手には、少し大きめの紙袋。

いつも以上に明るい顔もいれば、微妙に曇った表情もある。

一方の男子どもはというと、中には浮かれた表情の奴らもいるが、

ほとんどは何食わぬ顔で、意識していないようなふりをしている。



―――あーあ、めんどくせーなぁ・・・


俺は毎年この日に流れる、甘ったるい空気が苦手だ。

・・・いや、むしろ嫌いだ。大っ嫌いだ。



空気が読めないとか、強がってるとか言われそうだが、

俺は声を大にして言いたい。


「バレンタインとか死ね!!」





話は昨日へさかのぼる・・・



「めんどくせーなぁ・・・」


教室はいつもと変わらず賑やかだ。

女子数人が集まって何やら話をしているのは分かる。

男集団からもそのワードが聞こえてくるってのはどういうわけだ。


そうですとも、明日は2月14日、バレンタインデーですとも。

だからって何だ。ぎゃーぎゃー騒いでバカらしい。



「あのさぁ、その『めんどくせー』って口癖、どうにかなんないの?」

「口癖気にしてたらまともに話せねーよ」


俺は普段、こいつ――これからはイニシャルで「T」と呼ぶことにする――といることが多い。

Tはいわゆる「欠点のない奴」というタイプだ。

勉強は成績のいい部類に入る俺よりできるし、

スポーツに関しても万能、特にバスケはクラブチームに入るほど。

体育で留年しそうになった俺とは大違いだな。

おまけに顔も・・・いや、俺と比べるのはよそう。



「本当はSも(俺のイニシャルは「S」)内心意識してんだろ?正直になれよ」

「だーかーら、俺はいつでも正直だって言ってるだろ」


どうせこの話を聞いてるあんたも、俺が意地張ってるって思ってるんだろ?

この時期に「バレンタインとか興味ねーし」と言ってる奴らの

半分以上は「興味が無いふり」だからたちが悪い。


俺はバレンタインが心底大嫌いだ。

何だ最近は友チョコだとか言って女子同士で交換してるし

その辺で適当に買ったのを無愛想に渡して返しを求めてくるし

あーつまらん。鬱陶しい。めんどくさい。



「女子同士とかお返し期待とかおめでたいよなー!」


俺が声を張って言った瞬間、教室の空気が静まり返った。


気まずい雰囲気がしばらく流れた後、元のとおり騒がしい声が聞こえ始めた。


「・・・S君ってさぁ、そういう余計な一言多いよね」

「Hに賛成」

「Tも大変よねー」


クラスメイトのHにすれ違い様に言われた。

そうかそうか、俺は「君」付けでTは呼び捨てかよ。

HとTの関係からして・・・

だからTは余裕なんだろうな。



俺はどうも空気が読めない存在らしい。

こんな「余計な一言」のせいで、今までどれだけ損してきたことか・・・。

いや、そんな話はこの際どうでもいい。



「どうしてそこまで嫌うんだよ?確かSって甘党だろ」

「あのなぁ、バレンタインデーにチョコなんて日本だけなんだぜ」

「ああ知ってる」

「チョコレート会社の宣伝文句に乗せられてこうなった」

「わかったわかった、知識披露はもういい」


さっきも書いたが、俺は成績はかなりいい方だと思っている。

ただ、学校の授業よりも無駄な知識の方が多い。

それが空気の読めない性格に拍車をかける。

無駄知識をここぞとばかりに話して、場を凍りつかせたことは一度や二度じゃない。

あれだ、「かしこぶっててウザい奴」。自分で言うのも何だが。



「Sが好きだろうが嫌いだろうが、もうこの通り皆染まっちゃってるから」


普段菓子類持ち込み禁止の小学校でもこの日は見逃されてるし、

どうして誰もかれも不自然に思わないんだよ。

大体、インフルやらノロやらが流行るこの時期に食い物交換するとか・・・

駄目だ、考えただけで吐きそう。



一人吐きそうなそぶりを見せる俺に、Tが食いつく。


「それじゃ俺も言うけど、外国じゃ女同士も男から女も贈るそうだぞ」

「・・・そりゃそうだけど、『ホワイトデー』とか問題外・・・」

「はいはいわかったわかった、しょぼい義理を返すのが面倒なのね」

「・・・・・・・・。」


何だこの見透かされてる感じ。


「これが本来のバレンタインだ、諦めろ」

「・・・何を諦めるんだよ」



ここまで説き伏せられて黙ってられるか。


「それなら、バレンタインの由来って知ってるか」

「何だよ、言ってみろよ」



「バレンタインって人が処刑された日」



教室内が凍りついたように静かになった。

女子数人が親の仇でも見るような目で俺を見ている。


「・・・S、もう喋るな」


またやった。俺は大きくため息をついた。


「・・・そうだな」


これじゃあ、明日もろくな1日じゃなさそうだ。




②へ続く・・・


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