曹達記

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ポケスペ14章について、現段階での総括

2024-08-31 10:50:00 | ポケスペ
ポケスペ通巻版65巻は、2024/9/272024/12/27(発売日が延期されてたので修正)に発売予定である。
予告どおりなら13章がこれで完結し、14章がスタートする予定だ。
ただ、14章の連載自体は2016~19年にかけて行われており、先行版として発売されている。一応その段階で話の大枠はできているので、剣盾編同様未完成ではあるが、現段階での自分の総括感想をここに示しておきたい。
剣盾編よりも否定的な論調が多くなってしまっているが、それでも構わないという方はこのままお読みいただけると幸いである。

構成は以前書いた剣盾編総括感想同様、テーマ・キャラ・バトルの3点からの記載としたいが、バトル面についての総括は剣盾編とほぼ同じなので割愛する。
バトルについて端的に言うと評価は「良くない」なのだが、その理由や問題点もほぼ同じである。ダイマックスをZ技に読み替えるだけだ。なので、剣盾編総括3の記事をご笑覧いただきたい。

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また、剣盾編連載中にハウの扱いからマナブの存在意義を考察した記事もあるので、そちらもあわせてご笑覧いただきたい。

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なお、自分のゲームに対する評価としては、SMが物語として完成されていた反面、USUMはストーリーについて明らかに蛇足だったと思っている。
そのようなスタンスから論評をしていることを念頭に、本記事をお読みいただきたい。


テーマの考察

14章について自分がまず思ってしまうのは、明確なテーマがまるで見えてこないことである。
無論、途中までは「伝統vs革新」であるとか、「親子」であるといった原作のテーマをなぞっているように思えたのだが、USUM発売後の展開急変で何もかもが変わってしまった。
そのため、ラストバトルであるパーフェクトジガルデvsウルトラネクロズマからはテーマを読み取るのが難しいし、リーリエとルザミーネの親子関係についてもゲームの枠を辿っているだけで、あまり作品固有のテーマを見出だしにくい。

更に、これまでのポケスペにおいて主流であった「悪の組織との対決」も14章においては不発気味であった。
そもそもゲームにおけるスカル団は「島めぐりの落伍者が多く在籍している」というバックボーンがあるのだが、ポケスペでは島めぐりが絶えかけた風習になっているので、その設定があまり機能していない。更に組織の性質上悪事も大したことができない。
もう一つの悪であるルザミーネについては、やったことの大きさは以前の章に比べても大きいのだが、背景が背景なだけに清々しいまでの悪役ともし難く、決着もバトルで終わることができなかった。
ザオボーについては屈折した小悪党というキャラ自体は悪くないと思うものの、所詮小悪党でしかなかったのが最後まで足を引っ張っており、悪役としての格式に欠けていた。
これらの事情から、悪との対決において消化不良の展開を多く抱えることになり、悪が明確でないゆえにテーマも見えなくなっている。


テーマがぼやけた理由として自分が考えているのは、ゲームのSMでは「島めぐり」がほぼ全ての登場人物に関わる話として深く根付いていることだ。
XYまでのゲームでは、ジム制度と悪の組織の存立に深い関わりがあるという設定はない。精々サカキがジムリーダー兼ボスであるとか、パキラがフレア団のスパイであるとか、その程度である。
しかしSM以降では、悪の組織もジム制度も一つの大きな主題の一部として扱われるようになった。それがSMにとっての「島めぐり」であり、剣盾での「ジムチャレンジ」であり、SVでの「宝さがし」である。
そして、SMでは「島めぐり」の良い面も悪い面も印象的に描かれる。多彩なキャプテンの試練は楽しいものだし、一方で落伍者への厳しい視線やカプという気まぐれな存在に認めてもらうことの不条理も描かれ、最後はそれらをまとめる形でポケモンリーグが出来る。それを通じて成長するのがハウやリーリエであり、プレイヤーにも「島めぐり」という架空の風習への想いを馳せさせるのである。

ところが、ポケスペでは「島めぐり」についてあまり主題に置かれていない。
島めぐりが主題であれば、サンとムーンそれぞれの思惑と「島めぐり」に代表される伝統との対立や協調が出てきても良いはずなのだが、それがない。
伝統と革新という大きな枠で見れば、伝統にぶつかる挫折者としてグズマやスカル団が置かれているのはゲーム通りなのだが、革新に当たる人が誰もいない。ポケスペの設定ではそもそも島めぐり自体が盛んではないのだから、彼らの感じる閉塞感があまり伝わりにくい。主体的にプレイするゲームとは媒体が異なる漫画なので、図鑑所有者側にも何か「伝統に基づく不条理」を色濃く出しておかないと、その辺りの閉塞感が今一つ分からないと感じた。例えば、サンが金儲けのために島めぐりを利用する下りについて、もっと島キング・クイーンとの対立を濃厚にするとか、はたまた表面上は要求を容れたようにしておきながら内面では蟠りを残したりとか、いくらでもやりようがあったように思える。

ルザミーネとザオボーはそういった対立から外れているにもかかわらず、大きな悪として描かれているから余計に分かりにくい。これは原作からしてそういう設定なのだが、SMにおいてルザミーネはリーリエと対立する悪役として「成長を認めない立場」に立っていて、「伝統や以前のあり方を変えることに対峙する」と見れば、改革者であるククイ側に対しても悪役と見えうるのである。彼女が氷漬けにしたポケモン達がその象徴だ。
しかし、ポケスペではルザミーネの成長を認めない姿勢こそそのままだが、先述の通り改革者に該当する人が誰もいないので、対立の構図になっていない。勿論ルザミーネの精神的DVやUBを解き放った行為、ザオボーによる殺人未遂が悪であることに異論はないのだが、ポケスペ内だけで見ると悪事について一貫したテーマは見受けられない。

グズマが閉塞感に対する反発から破壊を求め、ルザミーネが不変性を求め、ザオボーがルザミーネからの愛を求めたというキャラ自体は分かるのだが、それらの中に一貫したテーマは見つけにくい。
それでも敢えて14章における悪の共通項を考えるなら、「愛」もしくは「承認欲求」なのかもしれない。
しかし、それが図鑑所有者達と絡んでいるのかと言われるとそうでもない。善側に設定されていない共通項はテーマと言い難い。
何が善で何が悪か、というのはテーマを描く上で重要な要素のはずなのだが、悪に置くべき面々の設定がゲームの時点で定まっているがために、逆にポケスペ独自のテーマ性が設定できていない。
それゆえに、起こる事象はゲームをただなぞるだけになってしまい、USUMが途中で出たことでさらに分からなくなったと自分は感じる。
個人的な考えとして、ゲームでの対立項である「伝統vs革新」をポケスペに持ち込まないという逃げ方はできなかった以上、その対立項からポケスペなりのジンテーゼを出せれば、まだこのような不具合は生じなかったと思う。「真実vs理想」というBWの対立項を「夢」というジンテーゼで克服するという、10章のような書き方ができていれば良かったのである。


偽らざる感覚としては上記の通りなのだが、終盤の展開からある程度のテーマ性を読み取る試みはしておきたい。
ゲームのストーリーは最終的にククイがポケモンリーグを創設するという形で終わるのだが、ポケスペはそちらに行くことはなかった。話の全体的な〆としては、ウルトラ調査隊の話が主軸だったように思える。
ウルトラネクロズマを打倒するというオチはゲームと同じなのであるが、そこに「これまでポケモンの力で過ちを繰り返してきたポケスペ世界の人間よりも、最近モンスターボールの技術を得たウルトラ調査隊の方がネクロズマを捕獲するに相応しい」と〆ている。

ウルトラ調査隊はルザミーネに協力し、更にアクロマからの技術供与も受けていて、ポケスペ世界での悪人と組んでいる存在だ。それにも拘らず、ポケスペ世界での正義を司る国際警察のリラが、世界を壊滅させうるネクロズマを託すに相応しいと見込むのは何が理由なのだろうか。
無論リラにウルトラ調査隊と面識がある、という大事な一点は考慮しなければならない。
ただそれを抜きにしても、この行為に対して作中では誰も異を唱えてないことから、作者としてもこれを正義として捉えていると見てよいだろう。

では、ルザミーネとウルトラ調査隊の明暗は何によって分かたれるのだろうか。
両者に共通するのは「愛ゆえに対象を深く傷つけてしまった」という点だろう。
まずルザミーネはモーンが行方不明になったことから、子供たちに歪んだ愛情を押し付け、深い傷を残した。
そしてウルトラ調査隊は神であるネクロズマを敬愛し、より能力を安定的にするために制御を試みた結果、傷つけて暴走を招いた。
しかし、両者の大きな違いは「行いを悔いることができたか、さらに償いをする意思があるかどうか」であった。
ルザミーネは自信の行いを悔いる気は全くなく、リーリエからモーンが生きていることを伝えられたことでようやく自身の悪行を認識したものの、ウツロイドの影響もあってか償いをする意思すら見せることはなかった。
ウルトラ調査隊の方はというと、ネクロズマによる光の簒奪で厳しい生活を余儀なくされている事情があるとはいえ、自身の先祖が冒した罪を自覚して治療の方法を探し求めているので、償いの意思は強い。

さらに、ウルトラ調査隊の存在はムーンの行動とも重なる面がある。
ムーンは自身の興味関心からポッチャマに消えない毒を付与してしまったという罪があり、それを治したいという意思から動いているのだ。そして、やはり償いの意思を見せたムーンもまた行動としては肯定されており、ラストでポッチャマの治療に成功したと示されている。

こうして見ると、あくまで後半からのテーマという感じではあるが、「罪と償い」がテーマとして存在するのではないか、と思う。
ザオボーの破滅も結局は自身の行いへの償いがなかったことに起因しているわけだし、ルザミーネは償いをする気がなかったがゆえに目覚めることなく退場したと言える。
あくまで先生方のコメント等の背景知識なしでの解釈なので、外れている可能性は高いのであるが、とりあえずの自分の結論として書き留めておく。


キャラクター描写

原作時点で濃いキャラが多数登場するようになったのはBWからであるが、XYは少し薄目のキャラ描写に戻していた。だが、SMはBWの路線を復活させ、現在まで続くポケモン人間キャラ人気の礎となった。
しかしポケスペには相性があんまり良くなかったように思える。先述の通りゲームの時点で大きな主題があり、そこからの逸脱が難しくなっている上に、ゲームのSMでは悪役の人間関係の中心線が主人公よりリーリエの方に寄っているので、そこからキャラや事件を大きく変えずに「図鑑所有者達を主人公にした話」をやろうとするのは困難なものであったし、その歪みが先行版の時点では多く出てしまっている。特に歪みが大きいのはハウの扱いだが、それについてはマナブについて考察した記事でまとめたので、本稿では言及しない。
ただ、歪みが出ているといっても良くできている面も勿論あるので、その両面を見ていく。


まず図鑑所有者の二人について考えると、ドラマ面の弱さが出てきてしまう

サンは金への執着の強さや手持ちとの絆は強く描かれてきたものの、結局彼の姿勢は作中で肯定されるのかされないのかという面については曖昧になった。
12才という年齢で金を稼ぐことに執着するのは、現代日本での感覚からしたらなにか歪んでいると思うが、一方でポケスペ世界では12才から子供として扱われなくなる設定も以前はあった。なので、肯定されるかされないかは今後も分からないといえる。
しかし、前の節で考察したテーマから見ると、別にサンの性質はテーマに沿っているわけではない。そこが弱いと思うのである。

また、全然サンと関わりが薄かったはずのソルガレオ(グズマが持っていた方のコスモッグ)が、なぜサンと絆を結ぼうとするのかもよく分からない。
リーリエが連れ出した方のコスモッグと違って、激しい虐待を受けてきたコスモッグには別にアローラを守る義理もないわけだし、サンとの関わりもほとんどない。
それがどうしてルナアーラと共にアローラを守ろうとしているのか、説明がないのは困る。
カプ・コケコがサンに石を託した理由も不明だし、エンがZクリスタルを持っていた理由も不明のままだ。

ムーンはウルトラ調査隊と対比になる点がテーマとして出てきたものの、手持ちとのドラマが弱すぎる。というより、ない。
その前の女子図鑑所有者にあたるワイや、後続のしーちゃんやスカーレットが割と手持ちとのドラマを描けていることを考えると、ムーンには忸怩たる思いを抱いてしまう。
おまけに6体揃えられておらず、戦術でも手持ちとのドラマでもバリエーションがない状態だったのは非常に勿体無い。
ポケモントレーナーが主役なのだから、ポケモンも主役の一部であるという大原則は忘れないでほしいし、そこを欠いてしまってはキャラの魅力も落ちる。何よりもどうにかして欲しかったところだった。

また、彼女にはもう一つドラマ面での問題があって、「科学者なのに失敗を強く恐れる矛盾」についてミリンに指摘されたにもかかわらず、それを克服する展開がなかったのである。主人公の欠点を指摘したなら、それに対して向き合ってドラマを展開するのが当然のセオリーであると自分は思う。やる暇がなかった、後で補完するからそれでもいいというのは、ちょっと頂けない。少なくとも物語上のフックを終盤で出したなら、きっちり答えを用意しておくべきではないだろうか。

さらに、彼女が事件に関わり続ける動機もよくわからない。本来なら幻の木の実とカプ・テテフを確保した2巻の段階で、もう目的は全て完了しているのである。サンの手助けをするという仕事も、幻の木の実を発見した時点で終わったに等しい。
それがなぜ事件に関わり続けようとするのかについて、心情描写が全くない。推測はできなくもないが、少なくとも主人公の一人なのだからそれぐらい描写があっても良いんじゃないかと個人的には思う。


その一方で、評価点としてはこの二人の関係性がある。対比としてよく構築された関係だと自分は思う。
まずサンは明るくアローラに長く暮らしているが金にがめつく、その内面は他者からの干渉を酷く嫌う。
そしてムーンはアローラには最近来たばかりで、落ち着いた性格に医療従事者としての高い倫理観を持ちつつ、毒に対する強い知識欲を持つ。
互いの二面性が互いに反応し合うものとして巧く構築されており、片方が進むときは片方が躊躇い、話を進める力がお互いにあると感じた。
テーマの部分では弱さが目につくと評したが、そんな14章がなんとか話を着地できたのは、ひとえにこの二人の牽引力が強かったからだと自分は思う。この点では剣盾編の二人よりも強い。
手持ちとのドラマがムーンにはないとしたが、それでもサンとのコンビだけでキャラとしての魅力を出せているのだから、この点は掛け値なしで14章の評価点であり、主人公に牽引力があってコンビとしての存在感も強いというのは、そうそう出せる存在ではないと思う。


他のキャラについても語りたいことは多いのだが、個別具体的な問題について言及していると長くなる一方だったので、全体的な概論に留めることとする。
ポケスペ14章におけるキャラ描写の全体的な傾向として、ゲームよりも表現を尖らせて描いている。それ自体は好みなのだが、実際どの程度ドラマで生きていたかという点を指摘すると、生きていない部分が多いと言わざるを得ない。
例として、グラジオは全方面に敵を作る言動を繰り返していたのだが、ではそのドラマ的な帰結について問うと、何もないのである。被害者に謝罪するとか、はたまた被害者から怒りをぶつけられて反発するであるとか、14章序盤でやってきたことからはそのような派生が考えられるのであるが、それがない。

原因として考えられるのは、尺不足が深刻になっていたことである。コロイチ掲載の前章にあたる12章は、途中で取り止めになったとはいえポケモンファンへの掲載分があり、さらにマイナーチェンジの発売もなかった。
しかし14章は厳しい状況でマイナーチェンジの発売も加わってしまった。2017年末の掲載分からUSUM要素を徐々に加えることで対応を図っていたように思えるが、結局残り1年のタイミングでウルトラスペースへの移動を入れざるを得なくなり、半年という時間上の空白を捻出することで、これまでの積み重ねをなし崩しにして展開を進めている。
こういった路線変更は仮面ライダー的に言えば「ライブ感」というべきところなのだが、そのライブ感に対応できるだけの尺がなく、それゆえにキャラ描写の尻すぼみを招いてしまったのだろう。2つのソフトを無理なく話に組み込むには900P前後では不足しており、剣盾編の1050Pでもやはり無理があった。

近年のポケスペは展開かドラマか戦闘描写かの3択を常に迫られている状態であり、その中で終盤になればなるほど展開の方を取る傾向にある。この傾向はもう少しどうにかできないのかと思うのだが、もはや原作ゲームにおける諸々の展開が「ノルマ」としてポケスペに課されている状況ではどうにもならない。
しかしそのジレンマがあるにせよ、先述したようにキャラの描写自体は好みであるだけに、そこから展開に囚われずドラマ的な帰結をちゃんとやってほしいのである。
それをやるのにどれだけの紙面が必要なのかは分からないが、少なくとも現状の900P程度では大いに不足しているのは確かだ。
通巻版でどれだけの書き下ろしができるのかは不透明だし、ここまでの発刊状況の遅延を考えると期待しすぎるのは酷だと思うが、それでも14章でどれだけの補完ができるかは今後の剣盾編やSV編の通巻版にも関わってくるので、できる限りの補完をしてほしい。


個別具体的なキャラは取り上げないとしたが、一つだけ取り上げたい話題がある。プルメリが最後にリーリエに投げつけた糾弾である。
鋭すぎるあまり、ポケスペ作中の台詞というよりは、どうもUSUMへの批判にすらなっていると感じるものだからだ。

ルザミーネはSMでは確かにラインを踏み越えた悪事をしていたものの、先述したようにテーマに沿った悪役として筋が通っていたし、因果応報の結末と救いを残すシナリオに自分は感心したのだが、USUMでは救済するためだけにキャラの骨子を崩した上に、テーマがぶれて話の展開がピリッとしなくなっていたのが残念だった。
しかも、その結果としてゲームにおけるザオボーが悪役としての側面を深め、あまり魅力的とは言いがたいキャラに仕上がったことを考えると、「被害者面して甘い蜜だけ吸って放り出す」という台詞が、それらの事情を代弁するかのようだと自分は思うのである。

それに、この台詞を放ったのが「蜜を吸う虻」であるアブリーに敗れた後であるというのが皮肉としてもレベルが高い。
ただ利用されるだけ利用しつくされて、最後はゴミのように市民からリンチに遭って壊滅するという、スカル団の末路が各メディアミックスの中でも最も救いようがないポケスペにおいては、このプルメリの悲痛な台詞がよく響いてくる。

ただいくら悲惨な境遇とはいえ、やはり言葉の鋭さがキツいものであり、作中の台詞として見ると少し浮いていると思う。
これに対してリーリエがグズマの生存を知らせることでプルメリが折れるという流れも、正直「論点をずらしているだけでは?」と思う。
まあ、だからと言って作中のリーリエにこの台詞への反論をするだけの強かさがあるとは思えないし、精々ルザミーネの分の償いも自分がやると言うしか逃げ場はなかっただろう。

作中としては若干持て余しているような気もしてしまうが、非常に鋭く面白いシーン。それが個人的にこのシーンに思うことであり、キャラ描写全体を締め括るものとしたい。


通巻版に期待したいこと

まず個人的に最優先されてほしいと思うのが、テーマをもう少し明確にできないかということ。
ルザミーネの悪事のきっかけにザオボーがいた、という話自体は良いと思うのだが、それが話のテーマにどう関わっているのかは見えてこないし、ウルトラ調査隊が善の側に立つならば何が両者を分けているのかという対立軸を明確にしてほしい。

もう一つ何とかしてほしいのが、ムーンの描写不足である。
結局手持ちを揃えられなかったことについて、後のしーちゃんやスカーレットでは手持ちを先に用意しているという形で解決しているぐらいなので、両先生にも課題として認識はされていると思う。
それならば、折角書き直すチャンスになるのだし、どうにかムーンの手持ち描写を追加してほしいところだ。「キミにとってポケモンとは何か」が全ての章を通しての主題なのに、ムーンに関してはその描写がなさすぎる。致命的なのでこちらも補完を絶対にしてもらいたい。

サンの描写も不足しているところは多いのだが、ムーンに比べると致命的な不足は少ない(それでも個人的には多いと思うが)ので、優先度はムーンの補完よりも少し劣る。
ただキャラ描写の項で書いた通り、各キャラのドラマとしての帰結がうまく行ってない点が多いので、そこをなんとかできる範囲で補完できれば良いと思う。

そして、上記に比べると優先度は下がるが後半のバトル描写の補強も必要だと思う。
剣盾編総括と同じ内容になるので書かなかったが、Z技もダイマックスやテラスタル同様、ポケスペ的バトルの良さを殺してしまう厄介な存在である。
それならば、ダイマックスと違って試練で毎度出さなくても良いのだから、Z技を使わないバトルをもっと入れた方が話のバランスが良くなると思うのだ。
特にラストバトルは、伝説ポケモンが大技を出すシーンが殆どを占めていて、テンポが悪い上に長すぎるし、技巧的な捻りもほぼない。
それで「これまでのポケスペの中で一番の強敵」と言われても、残念ながらヤナギの方がよっぽど強かったという感想にしかならない。
大技よりも技巧を尽くしたバトルの方が面白いという自分の好みの問題があることは否定しないが、それでももう少し何とかして欲しかったという思いがある。
今のところSV編ではバトルの建て直しがある程度できているので、14章のバトルの加筆にも期待したい。


さて、ここまで14章の総括を記述してきたのだが、どうも否定的な内容が多く出てしまったことは否めない。
なぜこうなったのか考えてみると、14章は初めて自分が連載を追った章であることに原因があると思われる。
2018年にポケスペと「再会」して、その後先行版3巻までを買った後にコロイチを買うようになったので、14章は丁度半分を連載として追った形になる。
それまでのポケスペ各章を読んだ上での連載後追いだったので、前半で置かれた布石についてうまく活用する作劇を自分が必要以上に期待していたフシがあり、その結果期待を裏切られた思いが膨らんでしまったのかもしれない。
改めて、乱文長文になってしまったことをお詫びしたい。


65巻が発売されればそれ以降の刊行もスムーズに進むはずなので、最終的な14章の総括はそれが終わってからになるであろう。
そうなれば、今自分が抱いている否定的な評価もかなり改善されるかもしれないという期待を込めつつ、筆を置かせてもらう。


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