土曜日はオンライン読書会でした。課題書は、それこそ約100年ぶりの復刊、江馬修『羊の怒る時 関東大震災の三日間』(ちくま文庫)でした。参加者は7人。
***出ていた声(太字にしたのは私)の一部をご紹介します。
●記録ものとして大きな価値がある
「物語として面白いというものではないが、事実の記録ものとしての価値が大きい。実際の被害者数は把握されていないので、記録として意義がある。東日本大震災のときもデマ情報があり、100年経っても人間やることが変わらない。」
●うやむやにしたい政府
「当時の東京都の対応や被害状況の資料を一切出さなかったと知って、政府はこのまま有耶無耶にしてしまいたいんだろうなあと思った。
ふだん接している朝鮮人は悪い人たちではないと日頃は思っていても、どこかで悪意が発生して急激に広がる。自分の中に眠っていたらしいもの出てくるのが怖い。ネットがなくても広がって暴動にまで発展するのがあっという間」
●日本人とわかるとがっかり…にゾッとする
「読みやすく、著者自身が経験していたことでリアルでわかりやすいが、その分すごくつらかった。道を歩いているだけで『お前は朝鮮人だろ』と疑われて、日本人だとわかったらがっかりされたとか。気まずくなるのではなく『殺せなかったな、悔しいな』って失望した様子が本当にゾッとした。たぶん普通の人なのに、人間ってこういう場面で正義感に駆られるとこんな風になっちゃうと思ったらすごく怖かった。
あとひどいなと思ったのは、焼け残ったお寺に集まった人たちが疲れて寝そうになるところを、寝ずの番をしている人がそれじゃいけないと考えて『朝鮮人が襲撃してきた』と叫んでみんなを起こすのに利用していた。みんながわーっとまた起きて、結局、朝鮮人狩りが始まって。その話をあとで聞いた人が『うまいところに気がついたもんだね』って感心したように言ったのもやりきれない。
また『この騒ぎのおかげで日本人への犯罪が抑えられた』と言う人もいて、どう考えていいかわからない辛さ。もしまた震災があれば、自分たち女性はどんな被害に遭うかわからない。その恐怖心から流言に乗っかって、自分も攻撃する側にいとも簡単になってしまうんじゃないかという恐ろしさを感じて、本当にすごいものを読んでしまったなと思った」
●意外じゃないのが、すごくつらい
「初めは実際の虐殺が書かれた本かと思ったけれども違っていた。“記録文学の金字塔”と帯には書いてあるが、確かにブログのような、文章が達者な人の日記を読んでいるような臨場感ですごく読みやすかったし面白かった。
巻末の307ページで石牟礼道子が、普通の人たちが『朝鮮人が酷いことをしている』と噂を流し、それが当然のように広がって凶暴化していくことを、“民衆の日常思考の劇症的な毒性化”と書いているが、(ネット上のヘイトスピーチなどでもわかるように)そうやって始まりこう反応をするというのが、意外じゃないのが読んでてすごくつらい。本当に100年経った今も全然変わってない。たぶん今もこういうことは普通に起こってしまうし、自分がそれに流されないとも言えない。
あとバカバカしくもゾッとするのが(朝鮮人と区別するために)『初・台』の合言葉が実際に運用されたこと。バカじゃないの?って思うけど、大真面目に行われていて本当に嫌だった。たぶん、自警団として巡回しているとき、みんな楽しい。だから本当は見つけたら袋叩きにしたいのに、そのチャンスがないとがっかりする。本当にごめんなさいって感じでゾッとしつつも、正直、こういう大変な中でそういう目標を与えられるとやる気がでてしまうのも分かるから、とてもきつかった。
作者は教養がないとこんな行動に走るのかと書いているが、赤ん坊が救われる場面でそれを称賛するおかみさんはすごく人間的な態度をとっている。しかし、彼女が知識人だとも思わない。どこで分かれるのかはわからないし、結論は言えないけれども、すごく読みごたえもいろいろ考えることもあり、読めてよかった」
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みなさん辛いエピソードに衝撃を受けつつも「今でも、そして自分も、やりかねないものである」という認識を慎重に考えておられましたね。私も自分の小物感を思い起こして嫌だなあと思った話をしました。でも多分、そういう歴史を知ることで、いざというとき少しは理性的・客観的になれる面はある、と思いたいです。
※かなり簡略化しているのですが、やっぱり長くなってしまったので分けますね。
つづく