前回ブログ記事に関連していますが、
今日はちょっと寄り道しますね。
私が子供時代のことです。休みの日に、
いとこ達と一緒に遊んでいました。
いとこが突然、言いだしました。
「ぼくねぇ～。大人になったら、絶対
おもちゃ屋さんになるんだ。そして…、
おもちゃ、売らないの～！」
もう一人のいとこが続けて言いました。
「ぼくはねぇ～、立派な絵を描く画家に
なりたいな～。そして…、自分で描いた絵、
売らないの～！」
そばで聞いていた大人たちは大爆笑…！
その時、父が私達に言いました。
「昔、野口謙蔵っていう立派な画家がいた。
亡くなった時、描いた絵、ほとんどが
自分のアトリエに残されていたんだよ。
彼は画家だけど絵、売らなかったんだ…。」
「展覧会に出品した作品が見事だったので
政府が買い上げたり、お寺に寄贈された
作品もあったけど、その他は絵、あまり
売らなかったそうだ。
もちろん、”売れなかった”のじゃなくて、
”売らなかった”そうだよ。」
「でも不思議だよね。どうして画家なのに
絵を売らなかったの…？」
「自分で一生懸命描いた作品が
他人のものになるなんて、絶対いやだ～！
ずっと自分のものにしておきたい…。
…と、思ったからじゃないかなぁ～。」
「そうかもしれないね…。
でも、それができたのは
謙蔵さんの実家が、昔からの大商人で、
お金持ちだったからに違いないよ。」
滋賀県東近江市”野口謙蔵記念館”にて
「亡くなって２０年後、謙蔵さんの絵は
展覧会で急に注目されるようになった。
謙蔵さんの絵を手に入れたい画商さんが
大勢、アトリエだった所にやって来た。」
「アトリエに来た画商さんたちは驚いた…！
素晴らしい作品が、そのままの形で
アトリエにたくさん残されていたから…。
どうして、絵、売らなかったのだろう…？」
さて、絵を売らなかった謙蔵さんですが、
その後、絵はコレクターさんのもとに…。
父はコレクターさんの家で、謙蔵さんの絵を
見せてもらってから、その絵に一目ぼれ…！
「とにかく、すごい画家なんだよ～。
迫力ある絵だねぇ～。空の色がいい…！」
父はそれから謙蔵さんの絵の写真集を
買って、毎日のように眺めていました。
しばらく経ったある日のこと…。
実家のリビングに、新しい絵がありました。
田舎の風景を描いた小さな油絵です。
父は、「これ、野口謙蔵の作品だぞ～。」
…と、得意げに言います。家族のみんなは
「うっそ～、絶対、偽物つかませられたに
違いない…。」…と、冷ややかでした。
謙蔵さんは43歳で亡くなっているので
作品数は少ないです。若い頃の作品は
本人の手で破棄されているそうですし…。
もしホンモノだったら…？お値段は…？
父の僅かなお小遣いでゲットできるもの…？
どう考えても、実家の絵が謙蔵さんの
作品である確率は極めて少ないようです。
どこでゲットしたのかは秘密とのこと…。
「きっと偽物だ…。きっと謙蔵さんのファンが
謙蔵さんの作品をお手本にして、そっくりに
描いた絵でしょう。でも本人がそういうなら
”ホンモノだ”ということにしておきましょう。」
こうしてリビングの絵は、家族みんなに
詮索されることなく時が過ぎていきました。
でも私、最近になってから、その絵が
ちょっと気になるようになりました。
「一度、鑑定にでも出してみたら…？」
友達に勧められました。
その時、ふと、ひらめきました…！
美術館に行って、謙蔵さんのホンモノを
たくさん見れば、実家の絵がホンモノか、
ニセモノか…？ 素人の私でも、
なんとなくわかるかもしれない…！
それが今回の滋賀県立美術館の
”野口謙蔵生誕１２０周年展”に
行くことに結びついたワケです。
で、美術館と”謙蔵ふるさとツアー”で
ホンモノをたくさん見て、実家の絵は
どうだった…？ ホンモノ、ニセモノ…？
「これとよく似ている作品もあった。
もしかすると…、ホンモノかも…！」
なんとなく、期待するようになりました。
よ～く見ると、実家の絵に描かれているのは
謙蔵さんのアトリエの近く、蒲生野の田園
風景にも思えるのでした。
ホンモノか、ニセモノかは別として、
この絵、実家の父にとって大切な宝物です。
謙蔵さんのいろいろな作品に出会って、
私も謙蔵さんの絵のファンになっちゃった…！
