ドイツの郵便局にて
ある日のことである。エレーナの勤める郵便局に、ひとつの小包が届いた。ドイツでは、郵便物を留め置くことができるのだが、その荷物は着くなり大きな騒ぎを巻き起こした。
「うわ、臭い!」
エレーナは、荷物から充満する強烈な悪臭に、顔をしかめた。ツンとするような、なにかがくさったような臭いである……、胸がむかつき、息が苦しくなった。となりのペーターを見やると、彼はコーナーに突っ伏して、げえげえ吐いている。
「だいじょうぶか、うえっ」
同僚たちは、つぎつぎと倒れ、中には腹痛で床に倒れるものまで現れた。
エレーナは、部屋一杯に充満したこの異臭のせいでめまいがしたので、息を詰めて局を飛び出した。
「だ、だれか助けて……!」
自分の声が、かすれているのがわかった。駆け寄ってくる通行人に、すがりついてしまう。
通行人が呼んだので、救急車がやってきた。しかし、郵便局の中には入ってこない。
警察が、「荷物をあらためた方がいい」
と、医療関係者を制したからである。
ガスマスクが用意され、万全の準備で郵便物が開けられることになった。差出人の同意は取っていない。この異臭が、新手のテロである可能性は、否定できなかったからだ。日本でも、地下鉄にサリンを撒いた事件があった。
警察は、完全防備で、荷物をおそるおそるあけた。
すると、中から出てきたのは、緑色で丸っこいイガイガのついたものだった。
「これは……、ドリアン?!」
警察は、あっけにとられた。
ドリアン。世界の三大くだものの一つ。その悪臭は、津々浦々に知らわたっている。よく見ると、このドリアンの数は、およそ三十個はあるように思えた。
その後の警察の調べによると、差出人は、タイの友人からそのドリアンをプレゼントされたという話であった。
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