モテソーダ
ある日商店街の十字路にフラフラ出ていた二歳の男の子を見かけたブタ男は、とっさに飛び出して少年を抱きかかえ、救った。ところが少年はブタ男の顔を見て、そのつぶれた鼻、細い目、でっぷりした体を見て泣き出してしまった。
「あーあ、もうちょっとカッコイイ外見だったらなぁ」
逃げ出した少年を見送り、ブタ男はそうつぶやきながら、うらさびれた商店街を歩いていると、店のおばちゃんが呼びかけた。
「イケメンになる、モテソーダがあるよ。ひとつどうだい」
そのおばちゃんには、発明家のだんながいたので、ブタ男は笑いながら、
「ぼくを実験台にするのかい」
と問うと、おばちゃんは、
「うちの主人も試したんだ。ごらん、このイケメンぶり!」
八百屋の店奥で、新聞紙から顔を上げた人物は、目元すずしく彫りの深い、ギリシャ彫刻風の外見だった。ブタ男は思わずみとれた。
「よし、飲んでみよう」
ブタ男はごくりとそのモテソーダを飲んでみた。
とたん、背がぐんぐん伸びはじめ、逞しい胸に、浅黒い肌、キラキラ輝く黒い瞳をした、どこから見てもイケメンがそこに立っていた。
女の子たちは、その正体がブタ男だと知らないまま、そのイケメンブタ男に群がった。
「昨日はツインテールの子だったけど、今日はショートヘアの子がいいな」
とっかえひっかえしているブタ男は、友だちに自慢した。
「えっへっへ。俺は鬼モテる。俺はスーパーヒーローだ!」
調子に乗った彼は、人を人とも思わない態度になっていった。
幼なじみのまゆは、それを嫌悪の目で見ていた。ブタ男が、自分中心の悪人になってしまったからである。
まゆがそっぽを向いて、ブタ男を相手にしないので、ブタ男はまゆに迫った。
「ぼくとブタ男と、どっちが好きなんだ」
「あんたみたいな傲慢な男、だいきらい! ブタ男さんの方が、優しい!」
まゆにひっぱたかれて、ブタ男は目覚めた。
例のおばちゃんのところへ行って、モテソーダを無効にする薬をゲット。
それを飲んで、まゆのところへ。
「欲望のままにふるまうなんて、大人のすることじゃなかった。人間、がまんが肝心だ」
ブタ男は、重々しい口調で言った。
元通りになっていくブタ男を見て、まゆは目を丸くした。ブタ男は唇を噛みしめている。
「でも、がまんできない事ってあるよね。
たとえば、トイレとか」。
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