このところ新聞やテレビが「コロナの自滅」を相次いで伝えている。
第5波の東京で1日に6000人超もの新規感染者が続いて、この先どうなるのかと不安を感じていたら急速に患者が減り、あれよあれよという間に一桁台にまで減ってしまった。
これには嬉しい半面、なぜ?の疑問が付きまとうわけだが、その答えの推測の一つがこの「自滅」説というわけだ。
国立遺伝研究所と新潟大学の研究グループが解き明かしたもので、概略次のような内容である。
「デルタ変異株のゲノムにおいて、増殖の際にゲノムのミスを修復するnsp14と呼ばれる酵素が変異し、ウイルスを速やかに修復できなくなったため、ウイルスが繁殖できなくなり『自滅』したことが分かった」
加えて➀nsp14酵素が変異したウイルスにおけるゲノムの変異は通常の10~20倍に達していた➁8月下旬の第5波ピーク時にはすでにnsp14酵素の変異が始まっていた➂昨秋から今年3月ごろにかけて発生した第3波でも同様の傾向がみられた――としている。
さらに④nsp14酵素の変化を促す物質はAPOBECと呼ばれる酵素で、東アジアやオセアニアにこの酵素が特に活発な人が多い――とも推測し、日本をはじめ、あれほどの感染爆発を起こしたインドなどで急激な収束が見られた理由の一つだと示唆している。
なかなか興味深い内容で、なるほど「自滅」だったのか、それならこのあまりに急激な感染者の急減の理由としてある程度は納得がいく…と思いながらこのニュースを見聞きした。
ただし、このままウイルスが死滅するかと言えば、そこは期待薄なんだろうと思う。
第3波でもこの傾向がみられたということは、増殖が追い付かなくなっての自滅はあるが、完全消滅ではないことの証明だろうと思える。
したがって油断は禁物で、手指消毒や手洗いの徹底、マスク着用、ワクチン接種、などなどの予防手段はこのまま続ける必要があるが、このメカニズムを応用すれば死滅させるように仕向けることもあながち不可能じゃないとも思えるのだが…
まぁ、その辺りは研究者の奮闘次第だ。出よノーベル賞候補!
しかし、この話は教訓的かつ暗示的である。
つまり「おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし」ってやつで、調子に乗ってイケイケドンドンで増殖を繰り返していると、その増殖の間に生じる書き換えミスの修復が間に合わなくなって自滅してしまうというのだから。
かつて日本の草むらや線路際など、空き地さえあれば増殖を繰り返して秋の野原を黄色に染めてしまったセイタカアワダチソウが、ある年を境にぱったり消えてしまった。
その理由(うろ覚えだが)が、元々セイタカアワダチソウには他の植物を寄せ付けず自分たちだけが増えるように、根から毒のような成分を分泌して他の植物の成長を阻害して駆逐し、勢力を拡大していたのだが、あまりに仲間が増えすぎて、今度は自分が出す毒のために死滅したのだ――と説明された。
まるでイソップ童話に出てきそうな顛末だった。
最近はまた復活しつつあるようで、野原に黄色が目立ち始めているが、今のところ自重しながら? 増えているようで、学習効果の結果なら興味深いことである。
そのデンで行けば、この地球環境におけるヒトの傲慢なふるまい、存在そのものが、コロナウイルスやセイタカアワダチソウと重なって見えても何ら不思議はない。
まさに今、COP26 が開かれているグラスゴーに世界中の政治指導者たちが集まって対策を話し合っているが、絶滅の道をたどるか、それとも危機を脱することができるか…、ヒトの行く末はまさにこの会議にかかっているともいえる。
優れた知能を持つヒトがこの危機に際して自らの「ゲノムのミス」を修復できるかどうか……さぁ、お立合い!
(見出し写真は近所の空き地で揺れるセイタカアワダチソウ)