久しぶりにうなぎ屋の暖簾をくぐる。
土用の丑の日が近づいていたある日、「ウナギが食いたい」と言ったら山の神が「一年で一番込み合う時じゃない。時期をずらしてゆっくり食べるほうがいい」というので、残暑厳しきこの日となった。
川端康成の旧宅の近くで、川端や小林秀雄ら鎌倉文士にひいきにされてきた店だ。
最近では養老先生の近況を伝えるテレビ番組で先生が自宅に出前を取って食べていたうな重が、表紙画像と同じ折り鶴を彫り込んだ見覚えのある鎌倉彫の重箱だった。
コロナ禍以降、この店では一度も食べていないので5年ぶりということになる。
訪れてみると店の外観も内装も壁にかかっている絵も含めて以前と寸分たがうことなく(少なくともボクにはそう見えた)、もちろん階下にテーブルが2つしかない店のつくりもそのままだった。
2階には座敷があるが、よほど客で込み合わない限り使っていないらしい。
閉店時間も午後7時で、途中、6時少し前に店の戸を開けて入ってきた女性客一人は「6時閉店なので」と追い返されていた。
店主は70代のようで、山の神に言わせると人を雇わず奥さんと2人で切り盛りしている様子だから、あまりあくせく仕事をしたくないのよという見立てだった。
勘定を払おうとすると、奥から出てきた店主は焼き場に立つ仕事着ではなく、Gパンに派手な柄のTシャツ姿に着替えていて、軽く驚かされた。
コロナ禍をどうしのいできたのか知る由もないが、生き残ったのは幸いだった。
おととし、隣町で行列ができるといううなぎ屋に出かけ、本当に行列に並んで食べてきたうな重より、ここのうな重の方が数倍、数十倍おいしく、そこはさすがに鎌倉文士やヨーロー先生もひいきにしているだけはあると改めて納得するのである。
長く続いてほしい店だが…
由比ガ浜通にそのお店はある
店の入り口のたたずまいも以前と変わらない
最初に頼んだのは白焼きと冷酒♪
この白焼きは蒸してあったから非常に柔らかかったが、どこでも白焼きは蒸したものを使うんだっけ…
ボクは蒸さないものを直接火にあぶったものの方がおいしいと思うのだが…
というのも、若かりし頃、折り畳み式のカヌーとテントを担いで四国の四万十川を川下りした時、地元のスーパーで買ったウナギの真空パックを夕方、河原に貼ったテントの前で火にあぶって食べたところ、そのおいしさに悶絶しかけたことがあった
買うときに店のおばあさんに「天然ですよね」と聞いたら、けげんな顔をして「ここらで食べるウナギはみんな川(四万十川)で獲れたものだけですよ」と言われてわが不明を大いに恥じたことがあった
大きいとも太ったともいえない貧弱に見えるウナギだったが、あの時の味が忘れられず、白焼きと言えば四万十川の河原を思い出す
幸か不幸か、あの白焼きに匹敵する白焼きにまだ一度も出会えないでいるのである
店の名前を彫った鎌倉彫の重箱登場
おぉ♪ 文句なしの美味でござった♪