平方録

一億総掟破り社会 !?

前日のどんより曇った天気とは裏腹に、風は冷たいままだったが、きれいな青空が広がり、米沢での調べものの続きで中央図書館まで出かけた。
目指す書物が手に入り、借り出す手続きを終えて図書館を後にしたのが昼過ぎ。
もう一つの用事を済ませようと駅への道を辿ったところ、夜は飲み屋になるような店構えの店先に昼飯の品書きが張りだされていて「初がつお」と書かれている。
「んっ、もう? 」と思い、一旦は通り過ぎたのだが、妙に気になって「まぁ、だまされてみるか」という気になった。

結論からいえば“初物”は新鮮で美味しかった。
もちろん、秋の戻りガツオのように脂がたっぷり乗っているようなカツオではなく、さっぱりとした味である。
確かに初夏のころに「目には青葉 山ほととぎす 初がつお」と詠われる初ガツオの味で、まさしく季節の味といってよい。
作者の山口素堂は鎌倉でこの句をものしたと伝えられているから、まさに本場なのである。

亭主にどこで獲れたものか聞くと「伊豆七島って聞きました」とぼそっと言う。
七島のどのあたりかと問うと答えが返ってこない。
伊豆大島と八丈島の距離は200キロくらいは離れているだろう。7つある島のせめて○○島の沖合とか何とか、もっと焦点を絞っても罰は当たるまい。
だいたいこの亭主、ガラガラと音の出る引き戸の扉を設置しておきながら、店に入っても知らん顔である。
さすがに注文すると「はい」と短く答えたが、隣の席でスマホをいじっていた青年はカウンターに出された注文の品に気づかず、しばらくして「覚めちゃうよ!」という、いささか怒気を含んだような亭主の声で初めて顔を上げる始末である。

私の前のカウンターにも黙って、そぉ~っと皿を置く。
「ヘイ、お待ち」などと威勢よくやってくれなどとは言わない。しかし、「お待ちどおさま」くらい言ったって罰は当たらないだろうに。
罰に当たるのが余程怖いらしい。
こういう偏屈を気取ったような輩は願い下げである。嫌いである。単なる自己中心のノータリンじゃないか。
こんな輩に調理されるカツオが可哀そうである。

去年だったか一昨年だったか、隣町の港に面した市場に寒ブリと千葉の勝浦沖で揚がったというカツオが並んでいて、それこそ江戸っ子が腰を抜かしてしまうような、寒と初夏の同居にしゃれっ気を感じて両方を買って帰った記憶がある。
あれもたしか、今頃の季節ではなかったかと思う。もちろん立春前の話である。

それにしても、初ガツオという呼び名は初夏のものだろう。
辞書を引くと、やはり「初夏のはしりのカツオ」とある。
漁船の進歩もあって、陸から遠く離れた海域にも簡単に漁に出掛けることが出来るようになったから、何も群れが沿岸に近づくまで待たなくっても獲れるのだが、それを初ガツオと呼ぶのは、やはり相応しくないし、正しくないのである。
単なるカツオの刺し身定食、でいいんである。
どうしても名前をつけたいんならいろいろあるぞ。
「寒カツオ」「フライングカツオ」「最先端カツオ」「新し物好きカツオ」「気短かカツオ」「カッ飛びカツオ」…

それを、わざわざ「初」を冠して客を誘い、その誘いにまんまと乗るアホがいて…。
こういう掟破りが世の中をどんどん悪くしているんである。あえてどことは言わないが、そういう掟破りが大勢いて、得意顔をしているところが東京の一角にあるではないか。
そもそも掟というものは破られるために存在するのだが、どうにも破ってはいけない掟というものも、あるんである。




薄い切り身9切れの“初ガツオ”定食、1000円。


別な店ではこんな張り紙が。相模湾のシラスは年初から3月10日まで禁漁である。観光客には地元産じゃなくてもいいか…
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