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平方録

五爪の龍の気概(寺巡りその9)

以前にも書いたことがあるのだが、禅寺の天井に描かれる龍のことだ。
これがどういう訳か日本では爪が3本しかない絵ばかりである。つまり指が3本しかない龍が描かれてきたのだ。
まぁ、それで3本爪の龍しか見ないのだったらそれがスタンダードになるだろうが、中国で描かれたものを何かの展覧会や、あるいは書物や文献で知る機会があるとすれば、5本指にちゃんと5つの爪が描かれた龍を知ることになる。
ボクが足繁く通う円覚寺仏殿の天井に描かれた水墨画の雲龍図も3本爪である。

ところが平成15年に建長寺法堂に掲げられた、やはり伝統的な水墨画による龍の指は5本あり、爪もちゃんと5つ描かれている。
鎌倉在住の小泉淳作という日本画家の手になるもので、多分、日本の禅寺の天井に掲げられた龍の中では唯一の五爪の龍だと思う。
その作者弁が小泉の随筆集「随想」にある。
先ず龍のイメージについて。
「天空にあって地上を見下ろし、人間の様々な災害に対して庇護を与えてくれる、人類が一つの理想的な動物として空想を凝縮したものが龍なのであるから、おそらくその寿命も桁外れに長く、数千年以上と考えられるから、例えば髭一本でも簡単には伸びないでトゲのようなものでなくてはならないし、鱗一つでもスンナリ表現したのでは鯉の鱗のようになってしまう。つまり体全体が長時間を経て成長していったものだから、その体のどの部分でも、空間を刻みこんでいくようにエグく表現しなければならないと私は考えるのである」

そしていよいよ五爪について…
「中国ではいつの頃からなのか、理想的な龍は双角・五爪ということになって、特に前足指の爪が5本ある龍は高貴なものにしか許されない時代があったようだ。
万暦の赤絵の陶箱に描かれた龍の前足の爪が5本あったために、わざわざ2本削り落として3本にしてあるのを見たことがある。民間の染付などに描かれている龍の模様には大体三つ爪、四つ爪が多いのもそのためである。わが国では、そのような拘束に捕らわれることはないと思うのだが、どういうわけか京都五山に描かれている狩野探幽の龍図などを見ても三つ爪、四つ爪が多いようである。
今回はそんなことに拘泥する必要がないのだから、五爪で描こうと思う。どちらにしても空想の動物なのだからどのように書いても勝手なのだが、それだけに古来、創りあげられてきたきた観念から一歩も出られないのがもどかしい」

この気概を知って小泉淳作という画家が好きになり、さらに「蕪」を描いた一連の作品を見て完全に圧倒されてしまった。
そういうことなので時々、小泉淳作の龍に会いたくなるのである。
秋の鎌倉寺巡りその9は‶建長寺汁〟がなまった「けんちん汁」で知られる北鎌倉の臨済宗建長寺派大本山の建長寺。
中国から招かれた蘭渓道隆が鎌倉幕府五代執権・北条時頼に頼まれて開いた日本最初の禅宗専門の寺で、鎌倉五山第一位の名刹にして鎌倉で一番大きな寺である。

桜の並木の先にそびえる三門

「建長興国禅寺」と書かれた扁額のかかる堂々たる三門(国指定重要文化財)

三門横の国宝の梵鐘


雲水たちの修行道場は立ち入り禁止

芝の増上寺にあった徳川2代将軍秀忠夫人・小督の方の霊屋を移築した仏殿(国の重文)

本尊の地蔵菩薩


手前が仏殿 奥は雲竜図の描かれている法堂(こちらも国の重文)

反対側から見た所 手前から仏殿、法堂、大庫裏、方丈と伽藍が一直線に配置されるのは禅宗特有


雲竜図が掲げられている法堂内部 5尺×7尺の麻紙48枚に描いた絵を天井に張り付けてあるそうだ 絵が完成した平成15年は開山750年に当たり、その記念の一環として掲げられた

方丈の門になっている勅使門 小督の方の霊屋の門で仏殿とともに移築された
(国の重文)

方丈の庭園

大庫裏、法堂、仏殿と続く

紅葉はまだちょっと早い感じ

塔頭の天源院

塔頭の龍峰院

男なら誰でも望む…

山の中の回春院

回春院をあとにして半僧坊への道を行くとすぐ竹藪があり、その竹藪の中に「虫塚」なるものが…

石に彫られた虫のオブジェが

クワガタもいる


タイショウオサゾウムシだって この昆虫のオブジェが多かったのはたぶんこの虫塚を建立した解剖学者にして虫好きの養老孟司のお気に入りかもしれない


これが「虫塚」 虫籠をイメージしたという五輪スタジアム設計者の隈研吾のデザイン


でっかいカブトムシ

挟土秀平という人は洞爺湖サミットなどでデザインを提供した芸術家のような左官らしい

こんなオブジェも

いよいよ半僧坊へ

烏天狗が大勢…

この時は生憎雲が出てきたが、はるかかなたに相模湾が見える

半僧坊から眺める仏殿や法堂などの伽藍

半僧坊から降りてきて振り返ると方丈の屋根の上に入道雲のような雲が…
気温は25度近くにも上がり、暑いくらいの1日だった
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