平方録

幻の積雪4メートル 奥羽路番外編その3

そもそも、この時期に奥羽路の旅に出かけたのは去年の秋に「肘折温泉の積雪が4メートルを超えてこれまでの最高積雪を記録すると宿泊料金1泊がタダになるそうだから行ってみない? 」という誘いが友人からあって、「えっ、4メートル! 」と想像も及ばない世界に魅かれてソッコー、二つ返事でOKしたのが発端だった。

しかし、年が明けて積雪量を聞いても2メートルをわずかに超える程度で、3メートルにも届かない日々が続く。
肘折温泉の積雪の多さは青森の酸ヶ湯温泉と並んで〝国営放送局〟が豪雪のニュースの度に「必ず」と言ってよいほど登場させて映像を流す場所である。
天気予報は「暖冬だ、暖冬だ」と言っているが、ヒジオリよお前もか!ってな具合で一向に積雪が増えないので今季の訪問はあきらめていたのだ。
そんな折に「宿泊代はタダにはならないけど、ギネス級の雪だるまでも見に行かない? 」という再度の誘いがあって、それもミステリーツアー風にやりたいというので、やっぱり二つ返事で「行く行く」と相成った次第。
理由なんかどうでもいいからオサソイさえあればどこまででも出かけるのだ。第一美味い酒と食べ物が揃っている国なのだから。

大蔵村肘折温泉へは山形新幹線の終点・新庄からバスの便があるが、我ら一行は山形市内の友人宅から車で向かった。
途中北帰行に備えて雪の解けた田んぼで落ち穂を拾って体力をつけるのに余念のない白鳥の群れを見、道の両脇に出来た車の屋根よりはるかに高い雪壁の間を通り抜けながら、少ないって言ったってそこはそれ、豪雪地帯の肘折だからと雪に埋もれた姿を想像してはいたのだ…

肘折温泉は周囲を山に囲まれた盆地のような地形の底に位置していて、県道から温泉街までは螺旋階段のようにぐるぐる回りながら降りていく巨大な構造物をたどって行くのだ。
そして目が回りかける寸前で盆地の底が見えるのだが、「ん? 」と目を凝らして見ても目に入る建物は雪の上にほとんど全体像を露出させていて、周辺の道路にも雪は全く見えない?!
おまけに螺旋道路を降りる途中に出来損ないの鏡餅のような平べったい〝でっぱり〟が目に入ったのが、どうやらギネス級と謳われた雪だるまのようである。

「おおくらくん」と名付けられた雪だるま作りが始まったのが1995年で「雪深い村で雪を使って何かできないか」という発想からだったという。
そして出来上がったのが高さが29.43メートル、ウエスト172メートルという地上8~9階建てのビルの高さに匹敵する超巨大雪だるまだった。これはすぐにギネスブックに登録され、世界一の雪だるまとして今でも破られていない。
ところが今年の雪だるまは雪不足というか、暖冬の影響なのだろう、身長は11.9メートル、ウエスト78.5メートルと初代に比べて半分以下に縮んでしまったのにはいささかがっかりさせられた。
それでも鎌倉・長谷の大仏さんの身長は11.39メートルあり、台座の高さを加えても13.35メートルだから、長谷の大仏に匹敵する大きさということはできるのだが、如何せん大自然のだだっ広い空間の中の11メートルは単なるでっぱりにしか見えない。

かくして4メートルの積雪もギネス級の雪だるまも今年に限っては幻に終わってしまった。
鉦や太鼓でどんちゃんやって期待を高めると、えてしてこういう結末が待っているものなのだ。
でも、螺旋道路のてっぺんから見た肘折の周囲の山肌は白一色というより、輪郭やら木立の1本1本を描き出している墨の色の濃さが増しているようでもあり、この雪深い山里にも春の足音が響いてきていることを感じたのだった。
ほどなくすれば、この温泉郷にもマンサクの黄色い花が咲くことだろう。

今回をもって奥羽路紀行番外編も最後にしようと思う。



「おおくらくん24世」 猫に見えたが干支の猪だという


温泉郷に下りる道路から見るとまるで扁平なお供え餅


俯瞰して見ると周囲の山々の雪化粧も薄くなりかけているように見え、足下の建物の周囲にも豪雪地帯の面影はない


北帰行に備えるハクチョウたちの群れ=村山市郊外


同=同
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