「まだフキノトウは出てないかなぁ」
「そうね、見てきたら」
「見て来てよ。今年も食べたい」
自分は一人コタツにもぐりこんでぬくぬくと温まりながら、かいがいしく家事にいそしんでいる山の神に言う。
ややあって「出てるわよ、見に来たら」という声がする。
勝手口からサンダルをつっかけて寒風吹きすさぶわが家の東側の日当たりの良くない一角に出てみると、地面のそこかしこに薄緑色をした小さな塊がポコンポコンと出ている。
「食べられる?」と聞くと「放っておくとトウが立つから採るなら今の内」という。
採取できたのは6~7個。
「春の香り」をそのままそっくり衣に閉じ込められるてんぷらにして味わいたいところだが、如何せん量が少なすぎる。
それで毎年のことだが、少量でも可能な「フキ味噌」にしてもらう。
そして夕餉の食卓の小皿にちょこんと盛られたフキ味噌の匂いをまず嗅いでみる。
際立つ香りは感じられないが、気のせいか味噌の香りの中にほんのりと青臭いような香りをかぎ分ける。
それが舌の上に乗せた途端に広がるほのかな土の香り…
そして舌の上で転がし、歯でちょっと噛んでみた時に口中にさぁ~っと広がるほろ苦さ…♪
あぁ、今年もまた…♪
冷えた日本酒がいつにもまして美味しい。
こうやってまた春に一歩近づいたことを実感する。
立春を過ぎてなお忍び寄って来る寒さを余寒という。
今冬はボクの暮らす南関東の海辺の町もいつになく寒い日々が続く。
何よりもいつもの年なら年が明けてから冬用の掛け布団に代えるのに、今年は12月の声を聞くとすぐに晩秋に使っていた掛け布団では寒くて寝られず、ひと月早い冬用布団の出番となった。
そして、余寒はいつもの年と違って本気を出しているようで、まったく気を緩めずに冷たい空気を送りつけて隙を見せない。
最高気温が10℃に届かない日が続く。寒くて長い冬だ。
「光りの春」はどんどん進んでるんだから、バランスとってほしいよな。
春の寒さたとえば蕗の苦みかな 夏目成美
蕗にトウが立ってしまってもなお寒さが居座る、なんてのは御免こうむりたいね。
香り立つような瑞々しさ
「春」が味噌と絡まって濃厚に凝縮された一品