それはまったく不意を食らったような衝撃だった。
心の準備も何もなく、「そろそろかな…」という期待感を抱いていたわけでもない。
何時ものようにベッドから抜け出し、明け始めたばかりの早朝の空気を吸おうと、ガラスの折り戸を開け、ベランダに一歩足を踏み出した瞬間だった。
トーキョートッキョキョカキョク♪ キョキョキョキョキョキョッ♪
夜明けの空気を切り裂き、つんざくように頭のてっぺんか降り注いできたのは、あの鳥のけたたましい初音だった。
古来から日本でその季節にならないと鳴き始めない鳥の鳴き声のうち、「初音」という呼称を与えられているのはウグイスと"あの鳥"を置いてほかにない。
そして古の文学作品にも多く残された鳥でもある。
ほととぎす声待つほどは片岡の 杜のしづくに立ちや濡れまし
詠んだのは紫式部。
大岡信の解説によれば「ほととぎすの鳴き声は特別に美しいものとも思えない。ただ昔の人はその声に夏という季節の訪れを聞いたから特別に珍重した。夜明け、片岡山の森のしづくに立ち濡れていようかしら、という紫式部の気分は若々しい。人待ち顔でさえある。それは暁の露に濡れて立つ恋人たちという伝統的な恋のイメージも連想されるからである」。
なるほど、紫式部が森のしずくに濡れながら待ったのは菅原道長ですか。
そして時代は下って鎌倉時代。永福門院が歌ったのが…
ほととぎす空に声して卯の花の 垣根も白く月ぞ出でぬる
実はこの歌、小学生も口にする馴染みの歌である。
佐々木信綱作詞の小学唱歌「夏は来ぬ」はこの永福門院の歌を下敷きに作られたものと考えられている。
卯の花の匂う垣根に
時鳥(ほととぎす)早も来鳴きて
忍び音もらす夏は来ぬ
ズバリですな。ウリ二つ。
ボクの家の周りでは卯の花と呼ばれたウツギは満開で、既に散り始めたものもあり、まさに時は今!
鳴かない方がおかしいのだ。
そう、ボクが不意を食らったという鳴き声の持ち主こそ、紫式部が詠み、永福門院の歌を下敷きにした「夏は来ぬ」を生んだホトトギスの初音だったのであります♪
ボクがここ数年記録しているウグイスとホトトギスの初音記録のうち、ホトトギスの初音は去年が5月26日、その前が5月28日、その前の2021年がボクの記録上では最も早く5月14日だった。
そのデンで行けば今年の5月19日というのは遅からず早からずといったところ。
そういうことで、初音が届くのはもう少し先になるのかなと漠然と思っていたところに、今朝、ガラス戸を明け放した途端、いきなりあの甲高い鳴き声が降り注いだので、正直なところ不意を食らったように驚いたのだった。
ともあれ、夏は順調にやって来た♪と言えるのかもしれない。
4:22の東の空 いかにもホトトギスの鳴き声が響いてきそうな雰囲気が…
4:25
4:44
4:57 陽が登る
夏至のころになると、太陽が昇る位置は今より更に左に寄り、左端の小高くなった山裾まで到達する
クロタネソウ
今日から天気は崩れ出し、その先1週間はぐずつき気味らしい
まさか梅雨のハシリじゃないだろうな