何か知らないがご立腹のご様子である。
ん? といぶかっていると「あそこの店に『生シラス 365日あります ‼ 』という張り紙が出ていたわよ」という。
2、3年前に開店した魚料理を看板にした店で、最近、テレビの無責任番組の食べ物編でちょこっと取り上げられたことがあるらしく、観光客を当て込んだ張り紙やら看板をべたべたと張り出した派手派手しい店である。
地元の人ならまず「生シラスが365日」と聞いて「?」と首を傾げるに決まっている。
元旦から3月10日まで相模湾でのシラス漁は資源保護の観点から禁漁期間になっているから水揚げされたばかりのピッチピチの生シラスは密猟でもしない限りお目にかかる事さえ不可能なのだ。
加えて、シラスは毎日獲れるというものではなく、海が荒れれば漁に出られないし、海流と水温の変化によっても漁獲ゼロという時がある。
冷凍って手があるじゃないかって?
確かに冷凍技術の進歩は目覚ましいものがあるのだろう。作りたての新鮮な風味を食感ごと瞬時に封じ込めてしまうことも不可能ではなくなった、らしい。
しかし、一度凍らせたものは解凍しなくてはいけない。
その時に、あのちっぽけで柔らかくて頼りなげなシラスの身体が急激な温度変化に対応できるかと言えば、はなはだ疑問である。
第一、相模湾沿岸の飲食店でそんな張り紙を出しているところはこの店だけだろう。
もしこれが可能なら、横浜や東京辺りのこじゃれた店でも生シラスが登場していてもよさそうな話だが、そんな話はついぞ聞かないではないか。
そもそも一度冷凍したものを「生」っていうのかしらん。「冷凍戻し」だろう。バカにするんじゃない!
江ノ島島内の江戸時代から続く老舗旅館の夕食の膳に生シラスが並ぶことはない。
目の前の海でその日の朝に揚がったピッチピチの生シラスでさえ「お客様にもしものことがあるといけないので」と釜揚げにしたシラスしか出さないのである。
それくらい繊細で気を遣う食材なのである。
そうやってはれ物に触るように扱ってきている生シラスをこともあろうに「365日! 」とうそぶく傲慢さ。その恥知らず。不誠実さ。
ボクなんか「何だいこの店は。目の前で新鮮なものが取れるというのに、冷凍ものを食わせるのかい」とさげすみますね。そんな不誠実な店には絶対に入らないし、近寄るのも嫌だね。
獲れなくて入荷がない時は正直に「今日は海が荒れて船が出られませんでした」と言われる方が「よし、今度こそ」といって食べに通う気になるね。
獲れたての生シラスはそのまま口に含んでも甘いんである。
冷凍したものにその風味が残るわけがない。
そんな冷凍ものなんか食べさせていたら客は一度きりでおしまい。しかも「おいしくなかった」という評価を周囲にまき散らすことだろう。間抜けな商売をしているものだ。
99・99999…%の真面目な店の敵ですナ。恥さらし!
妻のお怒りは至極ごもっともなのである。

不誠実極まりないものを見てしまったので口直しに釣り宿の2階で昼飯にした。妻はホウボウの煮付け

ボクはカサゴの煮付けに冷酒 ♪

網元で生シラスを買って帰り、生のままと、生シラスに小麦粉を振りかけて油でカリカリに揚げた〝シラスせんべい〟にして食べた。〝シラスせんべい〟もいけますナ

円覚寺の居士林に咲いている花。名前は知らない。禅寺の雰囲気に合った地味だが清楚なたたずまいの花である