大型連休中はもちろん、その前もまとまった雨が降った記憶はないから、この雨はカラカラの大地への貴重な贈り物と言ってよい。
ぼんやりと白んできた明け方の景色の中で、静かな音を立てて降り注いでいる。
風がないから、天上からまっすぐ一直線に地上に届いている。
雨の匂いがほんのりと漂う。
今盛りの花々から沸き立つているはずの香りはどこかにしまわれてしまっているようだ。
この雨のおかげで、今が盛りの新緑は一層輝きを増すことだろう。
今でもその輝きはびっくりするくらいだが、この雨の後の輝き方も見ものである。
散りかけている花々だって、まだ開かないバラの蕾だって、待ちわびた雨なのだ。
季節はまたひとつ動き、今日からは二十四節気の「立夏」の中の七十二候「蚯蚓出ずる」の候を迎えている。
蚯蚓はミミズで、侯の意味はミミズが地上に這い出てくるころの意だが、まさに地中のミミズもこの雨を喜び、地上に顔を出すにちがいない。
待ち望んでいるホトトギスの初音は今朝も聞こえてこなかったが、どこかで羽を濡らしているはずである。
こういう久しぶりの雨の日は家の中にじっとして、冬物と夏物がごっちゃになっているタンスや引き出しを整理し、たまっている読書の続きをするのがいいだろう。
まさに、おあつらえ向きの日がやってきたのだ。
ボクの理想としては1週間のうち6日間は晴れてもらい、残りの1日に静かな雨に降り注いでもらいたいと考えるのだが、願いは聞き届けてもらえないかしらん。
雨の降り方にも若干の注文があって、どんよりと低く垂れこめた空から降らせるのではなく、高く明るい空から降り注いでもらいたいのである。
どうせ降るなら雨にだって明るく降ってもらいたいのだ。ん? 注文が多すぎるって…
2、3週間前、蕾を食い荒らすバラゾウムシの被害を食い止めるために、蕾にだけ病害虫予防になる市販の薬剤を散布したおかげで、わが家のバラの生育はすこぶる順調である。
当初無農薬を志したので、芽吹き始めの蕾がかなり被害に遭ったのだが、そのダメになった蕾の後継もでき始めていてボクを喜ばせてくれている。
バラには珍しくシックな茶系の衣装をまとった「空蝉」は、わが家の中では早咲きのバラで、だいぶ盛りに近づいてきている。
しかし、大方のバラは今か今かと、咲き時を狙っている状態で、アイドリング中ってやつである。
この雨の後、いつ開こうかと待ち構えている気の早い連中から、ぼちぼち咲き出し、そして一斉に咲き始めるのも時間の問題になってきた。
100メートル競走でスターターが号砲を鳴らす前に「位置について。ヨォ~イッ!」と叫ぶような雨である。
選手たちは息を止め、バラたちもまた、その瞬間が近づいてきていることを知り、身構えるのである。
いよいよなのだ。
雨の匂いを嗅ぐ今朝の「空蝉」
昨日の「空蝉」
1本の茎に4つとか5つの蕾が付き、順次開いていく
咲き出しは「剣弁高芯咲」といって、デパートの包み紙に描かれたバラのような咲き方をするのだ
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