昨夜9時過ぎ、携帯電話に着信があったことを知らせる印が出ているのに気付いた。
誰からかと思って確かめると、中学高校時代を同じ学校で過ごし、大学時代や社会に出てからも時々酒を飲んで馬鹿話を重ねてきた友人だった。
このコロナ禍でこの1年はまったく交流は途絶えているが、それだけに「何事か?」と折り返すと、「今日、〇〇(ボクの名前)に会ったんだよ!」という。
なんのこっちゃと思ったら、横浜の繁華街の蕎麦屋でボクにそっくりな奴を見かけ、思わず声をかけてしまったそうな。
背広の上下をきちんと着込み、胸のポケットにはチーフを差し込んだオシャレな姿に「〇〇はそんな恰好はしない」と思いつつ、声を掛けずにはいられなかったのだという。
すると相手は怪訝な顔をしつつ返答するしゃべり方が「やっぱり〇〇にそっくりで、オレは正直頭が混乱し、こいつ俺をからかってるんじゃないかとさえ疑ったよ。今でも疑問に思ってんだ。それで、どうにも腑に落ちないから、もう一度確かめようと電話したんだよ」と半分笑い話風、半分本気である。
こんな大雨の日にスーツの上下なんか着込んで横浜くんだりなんか行くもんか。
第一、オレの制服はGパンにチェックの柄シャツ、それにせいぜいくたびれかけたジャケットを羽織るくらいだ。
とんだ人違いだが忘れずに思い出してくれたのが嬉しいよ、と答えておいたが、ヤツは「そうだろう」「そうだよな」と相槌を打ちつつ、なんとか納得したらしい。
それにしても面妖な話だ。
友人は長いこと水商売の道を歩んできただけに人相を見極めたり、人の顔を覚えることに長けている。
得意技は人間観察だと自認しているくらいなのだ。
そういう目をもってしても騙されたというのだから、よほどボクに瓜二つだったことがうかがえる。
そこまでそっくりと言われるのも何か複雑な気分だが、怖いもの?見たさで一度会ってみたい気もする。
お互いがレストランとかバーで話をしていると、チラッとでも目に留まった他人は自分の目を疑うだろうな。
おんなじ顔がまるで鏡を挟んで向き合っているような光景を見せられるのだから…
それより何より、顔はおろか、しゃべり方まで同じ「他人」と向き合う「自分」は一体どんな気持ちになるのだろう。
(見出し写真はわが家のニリンソウ)