毎月開いている定例の句会の後、会処のある駅前商店街にある界隈随一の人気を誇る立ち飲み屋に寄る。
まだ午後3時前だというのに店内は客でごった返し、カウンターに寄りかかったりしつつ、思い思いの姿勢でメガチュウハイなどのジョッキをあおっている。
(注 老婆心ながらメガとは「大きい」という意味に使っていて、ここではビールの大ジョッキに入れた酎ハイのことを指します)
いつもは店内のカウンターの一角に何とかスペースを探して割り込み、ボクらもメガジョッキを傾けるのだが、そんなスペースもなく、気候も良くなってきたことだしと、すぐ目の前を買い物客が通りすぎていく店の前の小さな丸テーブルを止まり木にした。
「働きもしないでこんな真っ昼間から…」などと、白い目を向ける通行人もいるのだろうが、そんなものは端から相手にせず、自作の反省やら他人の句の褒め足りなかった部分を改めて褒めそやしたり、早い話が反省会的なことをするのが楽しい。
そういう話をしている最中、一人が突如口にした。「ボク、来月70歳になるんです」
同人中、男では最も若いメンバーで"貧乏旅行"の手引書を何冊も出版している自分自身も貧乏な旅行作家で、今もまだ貧乏旅行に明け暮れる日々を送っている。
見方によれば誠に羨ましく、古来日本では芭蕉をはじめ漂泊の俳人が随分もてはやされたし、その漂白俳人の列伝に何れは加わるのではないかと期待してもいるのだがはたしてどうか。
その男が突如「古希を迎えるんです」と我々に向かってわざわざ吐露する本音はどこにあったのか、まだ定かではないが、いわく「『古希』って言葉は唐の詩人杜甫の詩から生まれたんですよね。その詩を読んでみましたけど、つまらない詩でしたよ。しかも杜甫は自分は50代で死んじゃってるんですよね…」云々。
何が言いたかったのか…
すると一緒にいた別の同人が「オレは来月80になるんだ」という。
ちなみに同人の最年長は83、84になる姉御だが、コロナの最中に体調を崩して休会中。
何のことは無い、もう20年以上も続けてきているわが俳句結社もいつの間にか後期高齢者がメンバーの中心を占めるに至ってしまった。(恥ずかしながらボクも馬齢を重ね、来月76歳)
見方を変えれば元気な老人たちが毎月寄り集まって、脳ミソにしわよ寄らせ、終われば立ち飲み屋でオダを上げてまだ明るいうちに帰っていくという、誠に健全なグループなのである。
通行人の冷たい視線など「一昨日来やがれ!」の世界なのである。
件の来月傘寿を迎えるという同人と肩を並べて駅に向かう途中、つぶやかれた。
「あのさ、台所の引き出しを整理してたんだよ。すると〇〇の箸が出てきたんだよ。それを見た途端、オレ本気で泣いちゃったんだ…」
今年の初め、彼は奥さんに突然旅立たれ、よりどころを失った。(注 〇〇は奥さんの名前)
句会でみんなに会えるのが唯一の救いだと言って、時々「〇〇恋しや」とめそついた句を出してくる。
最初こそ遠慮がちな表現だったが、最近ははばかることなく「恋しい恋しい」の連発気味で、本人もそれを「ウリ」にし始めた気配である。
奥さんに先立たれたのは彼一人ではなく、そうした同人が飲み終えて人混みに消えていく後ろ姿などは誠に切ない。
昨日も2人の背中を見送った。
近所の池と森の公園の緑は一層濃くなってきた
「万緑」という表現がぴったり
白いホタルブクロ(別名 提灯花)
今朝、初収穫した24cmに育ったプランター栽培のキュウリ
平方録の提出句(兼題は「紫陽花」)
茄子齧る夜盗虫コラッ夏来たる
ホトトギス鳴いて朝から半ズボン
提灯花バラに代わって点りけり
ホトトギス鳴いて朝から半ズボン
提灯花バラに代わって点りけり
睡蓮の鉢のメダカは「飼育中」
紫陽花やもの思うなりフツーの雨