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平方録

慶賀 慶賀 おめでとさん

狙っていたわけじゃない。単なる偶然だったんだ。

用事を済ませてJR横須賀線の武蔵小杉駅ホームに上がったのが12時19分だった。
そこに計ったようにどんぴしゃりのタイミングで12:21発の東海道線直通、特別快速・小田原行きが入ってきた。
ボクが乗り降りする駅まで普通は30分かかるが、特別快速だと25分程度で一番早い。
まさにおあつらえ向きの電車がやってきたのだが、ホームの電光表示に「海老名」の文字がちらっと見えたのだ。それもたったの2分後。
こういうのを千載一遇と言うんじゃなかったっけ。

海老名とは相鉄線と小田急線の結節駅。
相模鉄道はその海老名と横浜駅間で相模川の砂利を運ぶ鉄道として敷設されたレールで、ボクは高校時代の3年間をこの電車に揺られて通った。
言ってみれば地方のありふれたローカル鉄道なのだが、11月30日にJR線と乗り入れ海老名~新宿間で双方の会社の電車が直通運転を始めたのだ。
悲願だった都心乗り入れという訳である。

今現在はボクには縁のない鉄道であるし、利用することも無い路線の新規開通なのだが、そこはそれ、一応職業柄も野次馬根性が染みついているので、一度は新ルートなるものを自分の目で確かめておかなければな、とは思っていた。
それが、日中30分に1本しか走っていない電車が到着する時間に居合わせたのだから、それをみすみす逃す手もあるまい。
やってきたのはJRの電車ではなく、相鉄が乗り入れのために導入した濃紺色の新型電車だった。
田舎のプレスリーを自認したものの相手にされず、すっかり髪の毛も薄くなってしまったくたびれ男の自慢の一人息子みたいな電車なのだ。

これでもボクはあまり熱心ではないものの小学生以来の〝鉄ちゃん〟の端くれで、鉄道は乗るのも見るのも大好きである。
長じてからは〝呑み鉄〟としてもデビューし、一番の思い出は熊本出張の折り、阿蘇のふもとをぐるっと回って大分に出、そこから寝台特急の「富士」で横浜まで乗り、翌朝の会社の会議に悠然と出たことだろう。
この時は大分で買い込んだ酒類が門司に着くまでにすっかり空になってしまい、関門トンネル用の機関車の付け替え時間の合間を縫ってホームの売店で日本酒を数本ゲットし直すという綱渡りも楽しい思い出である。
列車の揺れは飲酒の速度も上げるものなのだ。
イカンイカン、鉄道に脱線は禁物だぜ。

新規に開通した相鉄とJRの短絡線はわずか2キロの短いものだが、これで直通運転が可能になるのだから頭は使いようである。
この話、実は現役時代に会社を表敬訪問に来た当時のJR横浜支社長から「今のところ内緒にしておいてほしい」と念を押されつつ、構想を聞かされていたのだ。
その数年前あたりから、相鉄の社長らとの懇談の席でも「乗りれたいんですよねぇ」という切なる願いを聞かされてもいた。
あれからかれこれ15年も経ってようやく実現にこぎつけたという意味でも、若干の感慨というものがあったのは間違いない。

JR武蔵小杉~羽沢横浜国大~相鉄西谷間を先頭車両で体験したのだが、ボクと同じようにキョロキョロと景色を確かめているロージン数人を見かけた。
暇を持て余しているんだろうが、まっ、好奇心を働かせて現場に足を運ぶところなどはいいんじゃない。
ボケてりゃ興味もわかないだろうし、足腰が弱って来れば出歩くことも出来なくなるんだから。
でもさすがに ? 缶ビール手に持ちながら…って奴はいなかったな。
とりあえず同輩に向かってエールだね。


武蔵小杉駅に到着する相鉄線直通「海老名」行き

JR貨物の横浜羽沢ターミナル

羽沢ターミナルの地下に作られた「羽沢横浜国大」駅

相鉄線は二俣川駅まで乗って直通電車を見送る
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