見出し写真はわが家の庭のルドベキア・ヘンリーアイラーズだが、同じ年に会社に入った同期生に手向けるつもりで掲げた。
訃報が届いたのは一昨日の夕方のことで、後輩が知らせてきてくれた。
死因は肝不全だったという。
そう言えば思い出したのだが、ヤツは酒を一滴も飲まないのに肝炎に懸かっていた。
入社して早々、配属先で発病し、自宅近くの病院に長期入院しているところを見舞ったことがある。
そこは元結核のサナトリウムで、夜中などは潮騒の音が聞こえてきそうだなと思えるほど海に近く、松林の中にポツンと建った木造の古めかしい病院で、こんなところで大丈夫なのかと思ったものだ。
そのことは口にしなかったが、今でも覚えているのは治療法がないなかでヤツは藁にもすがる思いだったのだろう、当時話題になっていた丸山ワクチンの投与を受けたのだと言っていた。
確か当時の丸山ワクチンは国から正式な承認を受けたわけではなく、民間療法的なものの一つくらいの位置づけでしかなかったかと思う。
そのことはヤツも当然ながら理解していて、「これがダメなら長くはないってことだろう」と力なく笑ったのを、今更ながら思い出した。
そうこうしながらも退院し、しばらくは何事もなく過ぎたのだろう。
その後、熱海の旅館の娘をどこからか見つけてきて結婚するから式に出てくれと言われ、5月の大型連休の真っただ中に箱根の有名ホテルの結婚式に臨んだのだが、待てど暮らせど一向に式は始まらない。
もしや、嫁さんが寸前になって逃げ出したんじゃないかなどとひとしきり無責任なひそひそ話が飛び交ったが、真相はお嫁さんの衣装が行楽シーズン真っただ中の交通渋滞に巻き込まれてホテルに届かなかったのだ。
結局式は4時間遅れぐらいで始まり、ヤツはボクらのところに来て途方に暮れた顔をするし、待たされる方はたまったものではない。
式が始まらないからアルコールは出ないし、一緒に招待された会社の同僚と一緒にマージャンで時間をつぶしたことも思い出した。
その後はヤツは経済畑、ボクは経済を除く社会分野全般や政治の分野へと全く違うフィールドで仕事をしたため、ほとんど交わる機会もないまま過ごした。
真面目な性格でコツコツコツコツ、夜遅くまで資料を読み込みこんだりしている姿をよく見かけた。
ボクらが外で一杯ひっかけてきて戻ってきてもまだ、そうして机の前にいることもたびたびだった。
そういうヤツだから仕事に派手さも之と言った面白みがあるわけではなかったが、堅実そのもので、頼んだ仕事は面倒な注文であってもきちんと仕上げるし、そういう意味で尊敬に値する人物だったのだ。
酒を酌み交わしたことがないという点において肝胆相照らすところまでは行っていないが、信頼のおける人物であったのは間違いない。
ヤツはあの松林の中の元はサナトリウムだった病院のベッドで何を考えて過ごしていたのか知らない。
死生観について語り合ったこともない。
しかし、古希まで生きたのだ。文句はないだろう。
同期生の冥福を祈りたい。
今朝の空気の澄み方は今夏一番だと思う
今年の夏これほどクリアカットで透き通った空を見るのは初めてだ 4:09
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