平方録

生き延びて来られたわけ

夜明け直前の白み始めたばかりの空に、ホトトギスの「特許許可局」の鳴き声がしきりと響き渡っている。
ウグイスの巣に卵をうみつけて、ちゃっかり子育てを委ねてしまうホトトギスにとって、この時期、この期間がどんな意味を持っているのか知らないが、おそらくはストレスなんてものとは無縁に違いない。

NHKテレビが「大変だ、大変だストレスがヒトを殺す!」と大々的に宣伝していた「キラーストレス」なる特集を2夜連続で見てみた。
現代人ならだれもが感じるであろうストレス。そのストレスがさまざまな要因を経てがん細胞の活性化をもたらしたり、脳の暴走を引き起こしたりして、人間を死に至らしめることが分かってきた、という内容である。
それが1日目。

そんな恐ろしい話を聞かされただけでは、いつそんな恐ろしいストレスに襲われるか、びくついて暮らさなければならないが、人間にはそれを自分自身の力で乗り越えられる能力が備わっているという「ご安心を!」編が第2夜のテーマだった。

前まえから、強いストレスにさらされると進行性のがんを発症するかもしれない、そうなればアウトだ、という話は漠然と耳にしていた。
元気だった人が突然がんに侵され、あれよあれよという間に亡くなるケースなどは、その典型ではないかと想像されたものである。
それが想像ではなく、やはり現実にそういう事が起こり得る、ということが科学的な検証から判明したのだそうだ。
そんな怖いもの見たさが、2夜に渡ってテレビを見る動機になったわけである。

個人的なことを言えば、現役時代、ストレスには決して強いという自覚はなく、仕事で胃がキリキリ痛むような場面にもしばしば遭遇したし、現実に後で分かったことだが、急性の十二指腸潰瘍になったものの何とか自然治癒していた、という事もあった。
緊張の連続が長引けば、あるいは押しつぶされていたらがん化したり、どうなっていたのか分かったものではない。そうした虎口を脱することができたのが幸運の一語に尽きるような、危機一髪の状態だったのかもしれないと思うと、ぞっとするのである。

そしてリタイアした現在、何が一番変わりましたかと聞かれれば「ストレスはまったくなくなったね」と胸を張って言えるくらい、実に幸いなことというべきなのだろうが、ストレスを感じなくて済む日々を過ごしているのである。
やりたいこと、好きなことを、やりたいとき、好きな時間に、好きなだけやれるのだから、それも当然かな、と思うのだ。
しかも、高校時代以来50年間抱きつづけてきた坐禅への思いというものも、毎週円覚寺に通う時間ができたことで実現し、2年間、坐禅に触れてきているのもストレスから無縁になってきている要因のひとつなんだろうなぁ、と漠然と感じてきたところである。

そんな中で、昨晩の第2夜の「どうぞご安心を!」編の内容が、まさに坐禅の世界そのものだったことに驚かされたのだ。
つまり、ストレスによって殺されないために、研究が進む欧米で特に注目を集めているのが「マインドフルネス」という、一種の精神統一のような、意識改革なのだそうである。

背筋を伸ばし、肩や腕の力を抜いて脱力して坐り、目を閉じて深く静かに呼吸をする。
その呼吸をしている様子、あるいは呼吸そのものをじっくり観察する。雑念が湧いて来てもそれを振り払おうとせず、気にしなくても良いから、ただ呼吸そのものを見つめる、というのがマインドフルネスだというのである。

円覚寺の坐禅会では横田南嶺管長が、まず最初に口にするのは、まさにこのことである。
背筋をぴんと伸ばし、腰骨を後ろに突き出し、下腹をやや前に突き出すようにして、肩と腕の力を抜き、全身の力も抜くようにして静かに座ります。静かに座りながら深~く、静かに呼吸をします。その時、ひとぉ~つ、ふたぁ~つ、と呼吸に合わせてゆっくり数を数えます。数を数えながら、吸って吐く呼吸の様子をじっと眺めます。呼吸している自分自身をもじっと眺めます。雑念が湧いて来ても気にしません。雑念を振り払おうとしなくても、気にならなくなる時が来るものです。
耳にたこができるとはこのことで、毎回こう教えられてきているのである。まさにマインドフルネスそのものなのである。

何も坐禅に限ったことではない。東洋思想の中には「瞑想」というものが大切にされてきているのである。
これもまたマインドフルネスなのである。
そしてもう一つ、ストレスをキラーストレスにしないための方策として「コ―ピング」という概念があり、楽しく打ち込めるものを探して、ストレスを感じた時にそれを実践するのが効果的なんだそうである。

何だ、そんなことか、という思いである。
実際に身体を動かす方がいい場合もあるだろう。しかし、そんな時間もなければ、頭の中で楽しいこと、集中できることを思いめぐらすだけでも効果があるんだという。
「初恋のあの子は今頃どうしているか」とか、私の場合ならサッカーであれよあれよと勝ち進み、全国大会のひのき舞台でも大活躍して女性からモテモテになる…なんて、あり得ないことを考えて夢中になることでも良いんだそうである。
現役時代は強いストレスを感じたりすると、現実逃避的にそういう世界にあえて浸ったこともしばしばである。しかし、これがストレスから解放されるための効果的な「コーピング」なのだというから驚きである。

現実逃避の世界に逃げ込んで、何と不謹慎なことかと自己嫌悪に近い感情を持つこともないではなかったが、知らず知らずのうちに、ストレスの深刻な被害から逃れられていたんである。逃れる術を身につけていたんである。僥倖としか言いようがない。

もう一つの秘訣は、ノー天気にケセラセラと楽天的に暮らせば良いんである。幸いなことに、そちらの素地も持ち合わせてもいるんである。残念だったね、キラーストレス君 ‼︎



300品種者アジサイを集めた横浜イングリッシュガーデンでは雨傘を吊るしたりしてアジサイフェアの真っ最中
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「随筆」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事