冬の陽光がたっぷり降り注ぐわが家の陽だまりで朝刊に目を通していたら、短パンに履き替えたいくらいに暑くなってきた。
ベランダ越しに見える周囲の山々の木々は押しなべて静かで、左右に枝葉を揺するようなこともなくじっとしている。
ここのところ数日間は晴れと雨の日が交互にやって来て、晴れた日には雑草だらけのまま放置してきた庭に出て、ようやく草を引き、現れたスペースにチューリップとアネモネの球根を植え、パンジーの苗を定植したりしていたのだ。
おかげでパトロールにも出られず、少し腹回りがもたついて来たんじゃないかと感じ始めてもいた。
で、冬晴れの快晴無風となれば気温が低いのを我慢しさえすれば、自転車日和ではある。
最近、大枚をはたいて購入したばかりのタイツを履き、「いざ、有酸素運動のエクササイズに出でてみん ! 」と愛馬にまたがり…じゃなかった、愛車にまたがりさっそうと冬の空気を切り裂いて走り始めたのだ。
街中を25分ほど走って湘南海岸のいつものところに到着したのが11時ほんの少し前。目の前に現れた世界は青色だけの世界で、空はどこまでも晴れ渡って透き通り、海は波も無く穏やかな表情を見せていたのだった。
雪を頂いた冬の定番の富士山はすそ野までその姿を現していた。
ただ、海面が少しざらついているかなぁ…と、何となく、いつもの穏やかさとは若干異なっているように感じてもいた。
街中を走ってくる時にはほとんど感じなかった風を、この海辺に出た途端、あれっ ! と思うくらいに感じていたことも又事実なのだ。
でも、海辺ではよくある事、そう思ってもいて、ひとしきり海の香りを嗅ぎ、様子を眺めるといつもの湘南海岸自転車道をひとっ漕ぎしてこようと、7~800m離れたコース出発点に向かった。
自転車道の出発地点にはトイレがあり、ここで小用を済ませたのだ。
時間にすれば2、3分だろう。
トイレから出て見るとボクの自転車が倒されている。前輪が180度方向を変えるほどにひん曲がって倒れていて、初めはそれが風のいたずらだとは気が付かなかった。
走り始めて…というより、トイレからまだ数メートルしか離れていない場所だった。
いきなりボクが進もうとしているまさに真正面、南西の方角から突風が吹き付けてきたのだ。
その猛烈な風に巻き上げられた砂粒が顔と言わず体中にブワ~ッとぶち当立ってくる。
目は開けていられず、呼吸だって思わず止まるほどの激しさだ。
自転車は漕げなくなり、風に背中を向けて鎮まるのを待つのみ。
薄眼を開けて辺りを見ると、砂粒が吹き飛ばされて行くのがまざまざと見える。耳の穴まで砂だらけになってしまった。
帽子をかぶっていなければ頭は毛髪と砂のジャングル? になっていたことだろう。
その場でUターンして戻らざるを得なかった。
このまま進めば砂風呂に身を投げ出したかのように砂まみれになる。
真っ平御免だよな、ジャリジャリの砂まみれなんて。
それ以前に目も開けられないほどだから、漕ぐこと、前に進むことさえ不可能だ。
慌ててというか、仕方なく降り出し地点に戻って一息つきながら改めて海を眺めると…(11:20撮影)
それまでさざ波さえ立っていなかった青一色だった海に白色が現れ、海岸に次から次に波が打ち寄せている ! ったく、わずか20分の間に、まったく別の海に代わってしまったじゃないか。いつの間に…という気分である。
船乗りは海が荒れだす時、白波の立つのを見て「羊の群れがたくさん現れたなぁ」などと、動物に例えて表現するそうだ。
確かに沖の彼方にまで羊がいっぱいではないか…
思い返せばトイレで2~3分を過ごした後に世の中は一変 ! したのだ。
晴天が一転、にわかに掻き曇り、夕暮れのように暗くなった雲間から稲光と共に雷鳴が鳴り響き、猛烈な風と雨に見舞われる…なんて光景は夏場ならたまにお目にかかるが、冬の湘南の海辺での快晴のままの劇的変化を体験するのは初めてである。貴重な体験をしたというべきだろうね。
でもエクササイズが中途半端になっちまった。
さて、これから坐禅に出かけて来る。使い捨てカイロをいっぱい張り付けて行ってくる。寒さはまだ序の口なんだけど…