平方録

ヒトゴトという酒の肴

久しぶりに夜の横浜へ。
後輩から連絡があって、ご報告したいこともあるので飲みましょう、という誘いにいそいそと出かけたのである。

報告の中身は6月以降の会社の人事構想とそれにまつわるエピソードが中心。
一方で新旧交代が進み、他方で旧態依然が懲りずにのさばるようである。
人事を肴に酒を飲むなんて久しくなかったことで、昔は酒の席だとよく話題に上がるテーマであり、サラリーマンには付きものの話題である。
だいたい、人事が話題になる時は不満か羨望・ねたみがある時と相場が決まっていて、普通はあまりいい酒にはならないことが多い。

人事というのはヒトゴトと読み、本来どうでもよい類の話のはずだが、悲しいかなサラリーマンの世界では3人集まって酒を飲むと10のうち6、7はこの話題になり、とてもヒトゴトでは済まないものなのである。
いくら憤慨し悔しがったとしても、どうにもならないことが分かっていても、分かっているからこそか、口角泡を飛ばし、腹の虫だけを鎮めようとするのだが、かえって腹の虫は暴れ回るばかりがオチである。
考えて見れば無駄なエネルギーを使っているのだが、そんな事にはとんと気が回らない。
その辺りを心して話に耳を傾けた。

誘った本人からは数日前に相談を持ちかけられ、本当にやりたい仕事じゃないんなら年齢も考えて潔く後進に道を譲った方がいい。いつまでも会社にしがみついているなんざぁ老醜以外の何物でもないから、その辺をよくわきまえておいた方が良い、と答えたばかりである。
その語の報告を兼ねての酒席である。

報告の中身は聞けば聞くほどあきれ返るばかりで、これから先、本当に大丈夫なのかと心配になるが、それこそ余計なお世話で、バトンを渡してしまった身には見守るしかない。
われらがバトンを受け継いだ時も、先輩連中はどうなることかとヒヤヒヤしていたに違いないから、因果は巡るの類である。
駄目なら駄目で漂流するだけである。場合によっては難破してしまうかもしれないが、陸から口は出せないんである。
船を降りた人間というのは、航海の無事を傍から祈るだけである。

後輩は6月の退職を前に4月から、関西の某芸大が東京で開いている講座に年間35万円払い込んで、美術の道に進むという。
現役時代から好きな分野のひとつだったそうで、グッドチョイスだと思う。
期間は4年間だというから本格的である。
応無所住而生其心。与えられた所に従って然あるがままにふるまう。コップの中のつまらない些事に煩わされることなく、やりたい道を歩めるなんて理想的じゃぁありませんか。
俗世間につまらない欲や未練をもたない人物だけが、リタイア後の豊かな再スタートを切れるんである。

それにしても、久しぶりに俗にまみれたものである。続いているんだねぇ、コップの中でちまちまと…。



円覚寺最奥の塔頭黄梅院ではマンサクの黄色い花が盛りを迎えつつある。
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