小5の姫が日の暮れた道を泣きながら学校から帰って来たそうだ。
ひと月くらい前から授業が終わった後、5、6年生の中で足の速い子ばかりが集められて居残りで走りの練習をさせられていたという。
市内各校の韋駄天を集めて行う陸上記録会に送り出す選手選考を兼ねた強化合宿のようなものらしいが、その最終選考に漏れたのが悔しかったらしい。
新学期が始まって早々に水泳の記録会の出場選手を決める居残り練習にも選ばれて参加していたが、この時も選ばれなかったのだが、それほど悔しがってはいなかった。
というのも、それほど水泳が好きでもないようで、水泳教室で習った通りのきちんとしたフォームで泳げるというレベルなのだ。
でも駆けっことなると幼稚園の時からこの方、運動会になれば必ずリレーの選手に選ばれるほどの俊足で、本人も人より早く走れることを表に出して自慢こそしなかったが密かに誇っていた節がある。
その証拠に、運動会の度に「ジイジに見に来て欲しい」と母親に言っていたようで、運動会の日程が決まると必ず「応援に着て欲しいと言ってるけど」と母親から連絡があった。
だから一度も応援を欠かしたことはないのだ。もっとも、本心は呼ばれなくたって行く ! だけどね。
今回も強化選手に選ばれた時に電話で「すごいね。やったね」と姫に伝えて激励したら、はにかんだ表情をしながらもコックリして嬉しそうだったのだ。
ひょっとして、代表に選ばれてジイジに報告することを思い描いていたのかもしれない。
それが思いがけない結果になったことで呆然としてしまったのではないか。
しかも、ジイジは間もなく開かれる伝統の祭り見物にやって来るのだ。
そこで直接会って報告できたはずなのに…合わせる顔がない…
となると、姫の心中は察して余りあるものがある。
ひいき目の祖父の目から見ても姫は小さい時から全身バネのような子で、広々としたところに連れ出すと「ジイジ、競争しようっ ! 」と一目散に走りだすような子だった。
登れる樹木やジャングルジムがあれば、大人でもすくむような高い所にもあれよあれよと子ザルのように登って行き、「ヤッホー」と地上でハラハラして見上げるボクらに叫ぶのである。
そんな元気印の子の、初めてと言ってよい挫折だと思う。
いいんだよ姫、がっかりするな。まだまだこれから先は長い。
第一、小5と小6では体力が明らかに違う。中学生になればさらに体力差は開くし、高校生はもう大人と同等だ。
特に姫は身体が大きい方ではない。しかもどちらかと言えばやせっぽちだ。
身体づくりはこれからなのだ。
悔し涙はこの先で必ず生きるよ。
昨日は姫の夢を見た。
姫の肩を抱いたボクがいろいろ話をして、何もがっかりすることはないんだ、毎日毎日を精いっぱい頑張っていくことが大事なんだよ、などと祖父らしく振舞って慰めている。
姫もボクの腰にしがみつくようにして手を回して聞いていたが、「あのね、選ばれないことが分かった時、足の力が全然入らなくなっちゃったの」と衝撃の大きさを表現したのが印象に残っている。
あと10日余りすれば実際に会える ♪
8月の記憶から(見出し写真も含め)