平方録

ジジイとババアたちのための日本文化の香り高き好日

旧交を温めたジジババどもの2日目は文化の香り高いものとなった。

すなわち、平均的な日本人の内のその中でもやや若干の幅広い教養を備えているのだと自負している連中にふさわしいツアーを用意したんである。
まずは横須賀線で北鎌倉へ。
ここで降りて鎌倉五山の第4位、臨済宗円覚寺派の浄智寺を尋ねる。
色づいたたわわのカキが茅葺屋根の書院の脇で青空に映え、いかにも禅寺然とした雰囲気を盛り上げる。

この寺はミーハーでごった返す大仏や長谷寺、鶴岡八幡宮などと違って観光客の姿はまばらで、いつだって静かな雰囲気の中で鎌倉から始まった禅の伝統的な価値観や世界観の一端に触れることが出来る場所なのだ。
ここでは何かを見るのではなく、感じ取るのである。
よく鎌倉を訪れる友人の一人は「ココは初めてだ。こんなイイところを隠してたな」と言ったが、その反応は正しい。
ただ隠していたのではなく、すでに案内済みかと思いこんでいたのだ。すまんすまん。

やや早めだが、午前11時にミシュラン一つ星の日本料理店へ。
俗な毎日を送っている強欲なジジイババアどもの心身を、今度は精進料理で少しは洗い清めてやろうという友思いの気持ちから予約しておいたのだが、食前の「麦」はまあいいとして、次は「米だ!」と全員の手がハイハイという声とともに上がるのを目の当たりにするに及んでは、なんだよ、浄智寺で何かを感じ取ってきたんじゃないのかい、とがっかりするのは奴らが悪いのではなく単にボクの認識が甘いだけなのだが、何をかいわんやである。

そして食後は般若湯の匂いの残る息を吐きながら寺宝の風入れが行われている円覚寺へ。
年に一度の風入れは、普段非公開の国宝舎利殿も公開され、見どころが多いのだ。
その前に一行を仏殿に引っ張っていき、大きな宝冠釈迦如来像の前で食事処での態度を悔い改めさせようと思ったのだが、素直に応じたかどうかは定かではない。

この日は事前の天気予報によれば朝の内は小雨がぱらつくかもしれないという、もしそうならうっとおしいことだと思っていたが、あにはからんや朝からきれいに晴れ上がり、電車も食事も、人混みに煩わされることもなく、すべて順調。
連中がこれほどまでに心掛けがいいのかといぶかるが、幸運は続き、普段はやっていない円覚寺境内の如意庵が抹茶を供してくれていて、少し待ったが静かな本堂に敷かれた緋毛氈の上から庭を眺め、抹茶とお菓子を味わうことが出来たのは上出来だった。

知性と教養にあふれる、そこそこレベルのツアーとなったのである。
きっと心も清々しさを増したことだろうと思うのだ。



浄智寺ではたわわに実ったカキが出迎えてくれ




目の前にぶら下がって一句を催促するが後の宿題にして


まだ緑の葉を残したままの大樹に寄生したモミジが赤く色づくのを「喝っ!」と見上げ


茅葺屋根の書院の相変わらずの美しい佇まいに安心もし


精進料理を味わいつつ日本の食文化に思いをはせる


円覚寺ではいつもは非公開の国宝舎利殿を見学した後、やはり非公開の修行空間に建つ禅道場入り口に置かれた睡蓮の水鉢に雲水たちの日々を思い


如意庵でお茶を味わう。茶もまた禅と一緒に日本にもたらされ、禅と深いつながりを保って今に続いているのだ
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「随筆」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事