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平方録

「お聞き苦しいところがあればゴメンあそばせ」

ナイタ ナイタ ウグイス ナイタ
キイタ キイタ ハツネ ヲ キイタ

ピッカピカの小学校1年生が国語の教科書を開くと、多分題材は異なるかもしれないが、こんな感じの文章を目にするはずである。
そして先生がお手本で読み上げた後、教室中のみんなも小さな口を開けて後に続くのである。
もっとも、ボクが小学1年生だったころの教科書はよく覚えていないけれどサクラだったような気がする。
都会の真ん中でもサクラは咲くけど、ウグイスは鳴かないだろうから「なんのこっちゃ ? 」になってしまうのかもしれない。

いかんいかん、最初から脱線気味じゃないか。

時は2020年2月18日午前11時17分ころ。
場所は鎌倉のとある谷戸の森。
前日吹き荒れた強風の名残だろうか、まだ西寄りのやや強い風が吹いていたが、気温は12~13℃くらいあって、風さえ避けられれば暖かさを感じさせる日だった。
青空の下、ゆっくり園路を歩いていると突如「ホィッ」と澄み切った鳥の鳴き声が降ってきて、反射的に足が止まった。
鳴いた声の主の気が散らないようにと言ういじらしい配慮なのだ。

ひょっとしたら…そう思ってじっと立ち止まったまま次の発声を待っ。
しかし、何の音沙汰もない。
5分…10分…それでも音沙汰無し。
空耳だったか…そんなわけないよなぁ…などと思いつつも場所を移動し、湿地帯の上に設置されたウッドデッキの一角に出る。
ウッドデッキの一部が陽だまりになっていて、冬の間は良く立ち止まる定位置でもあったのだ。

最初に耳にした「ホィッ」からどれくらい時間が過ぎたか分からない。
あいつはいつだって突如なのだ。
今度は間違いない。「ホォ~ホケキョォ~」とはっきり声を立てた ♪
それは決して「どおよ ! 」と胸を張った自信たっぷりの鳴き方ではなく、「初心者マークなんでお聞き苦しいところがあればゴメンあそばせ」的な、やや遠慮がちでちょっと女性っぽい鳴き声だったのは、むしろ微笑ましいくらい。
「何てったって『初音』だもんな、気にすることないよ」とボクは思ったが、ウグイス語が分からないので心の中だけにとどめておいた。
まさかユニセックス化は進んじゃいないだろうな。

今まで少し暖かい日があっても「時にあらず」と、歌いたくたってじっとがまんしてきたんだろうけど、もう大丈夫。
まだ慎重な仲間も誘ってあちこちで歌合戦を頼むよ。解禁としようや。にぎやかに頼むよ。
去年の初音は2月22日。その前が28日。2017年は25日だった。
2007年に2月8日に聞いたのが最も速い記憶だが、今年はここ数年と比べてやや早いってところ。

また季節の扉が一つ開いた ♪

この森の中から初音が届いた(見出し写真も)

ウッドデッキの下には湧水を集めた小さな流れがかすかな音を立てて流れている
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