小学校4年生の孫息子が泊まりに来ている。
初めての一人外泊である。
母親が急な用事で家を空けなければならなくなり、本人にしてみたら青天の霹靂、降ってわいた災難のようなものらしい。
初日のおととい、山の神が隣町まで迎えに行って我が家に連れてきた。
2階でパソコンを開いていたボクのところに、身軽な音を立てて昇ってきた孫息子はボクの後ろ姿に向かって「やぁ、じいじ…」とあいさつして脇のソファに座った。
友達同士の挨拶も「やぁ…」なのだろう、湘南ボーイというのは、たぶんこうなんだろうと思う。
変わった様子もなく、二言三言会話をすると階下に降りていき、山の神に連れられて電車で横浜まで行き、買ってもらったばかりのポケモンカードの袋の開封を始めた。
よく知らないが、この日発売されたばかりの新しいカードのシリーズで、10数枚のセットの中に希少でのどから手が出るほど欲しかったカードが含まれているという。
それが3枚も入っていたと、わざわざ見せに来て得意満面の笑みである。
ここまでのそぶりは快活そのもので、いつもの孫息子である。
ところが、一緒に風呂に入り、いざ夕食になると様子が変わった。
山の神が好物の唐揚げなどを作って並べると、わずかに箸をつけただけで「おなかいっぱい」「もう食べたくない」と食卓を離れてしまった。
そしてオリンピック放送には見向きもしないでYouTubeを見ていたが、ばあばに「気持ちが悪い」「吐きそう」と訴え、トイレに駆け込んで戻した。
そして携帯電話で母親に連絡を取り、じいじとばあばには聞かれたくないのだろう、わざわざ玄関のところに行って小声でひそひそやっていて、半べそをかきながら戻ってきた。
夜寝るのも一人かと思っていたらしく、ばあばが同じ部屋で寝ると聞かされてほっとした顔つきが印象的でもあった。
そんなこれやで心細くなり、食欲は一気に萎え、挙句に気持ちまで悪くなったらしい。
一人外泊がどれほど心身にストレスを与えていることか…と改めて驚かされたが、一方でその繊細さに少し同情する。
こうして経験を積みながら成長してくのだろうが、獅子は可愛いわが子を谷に突き落とすといわれるように、こいつの繊細な神経をたくましくさせるためのひと工夫が必要だなと感じた。
もちろん親の責任だが…
時代が違うといえばそれまでだが、ボクが小学校4年生の時は当時暮らしていた千葉市内から、夏休みにたった一人で東京・麻布の親戚まで一人で電車とバスを乗り継いで泊まりに行ったものである。
千葉駅から総武線に乗り、秋葉原で降りて、山手線か京浜東北線に乗り換え、東京駅は丸の内南口から出て中央郵便局(今のキッテ)に一番近いバス乗り場から世田谷の等々力行きの都営バスに乗って広尾の「愛育病院前」で降り、有栖川公園の木立の中を突っ切って西ドイツ大使館の塀沿いに歩くと目的の親戚の家があるアパートだった。
昼間の有栖川公園や大使館沿いの塀に沿って続く道には人影がなく、人さらいにあったらどうしようとキョロキョロ、びくびくしながら歩いたものだった。
渋谷に連れて行ってもらって、当時の東急文化会館にあったプラネタリウムというものを始めて体験したのもこの時である。
鎌倉・七里ガ浜から見た早朝の富士山