キンモクセイの樹の下にマイホームを張ったクモがいた。
大きくきれいに放射状に広げたマイホームには中央付近に縦に修理の跡が残っていたり、完成後はおそらく十分に居心地がよく、快適だったであろう事をうかがわせている。
狭いながらも楽しい我が家♪…と言うより、獲物を確実に捕えてくれる広くて住み心地の良い実利をもたらしてくれる素敵なマイホームにある日、思いがけないことが起こる。
良い香りを漂わせ、生活に潤いさえ添えてくれていたキンモクセイの花が終わり、突如、雨あられと咲き終わった花柄がマイホームに降り注いだのだ。
一つ花柄が落ちてきてマイホームにひっかかるたびに、家主は「おっ、獲物がかかった♪」と押っ取り刀で駆けつけるが、その度に、それが食べられない花柄だと知るとスゴスゴ戻ってきて、ため息をつくのである。
何度それを繰り返した事か…
今はもうすっかりくたびれ果ててしまって、その間にも花柄は降り注ぐ…腹は減る…
それでもまだ、キンモクセイの木に花は残っているから、これからもまだしばらく花柄は降り続くことだろう。
いずれ彼のマイホームは小さな花柄で満艦飾を施したように埋め尽くされ、風に揺られればクリスマスのイルミネーションのようにオレンジ色の点滅を始めることだろう。
そして遂に彼は自分の居場所さえ怪しくなっていくのである。
修理した跡の中央に陣取る主の姿が見える