平方録

初音が届いた!

昨日ついに初音を聞いた。

記録風に書くと「2017年2月25日午後1時55分」のことである。
場所は江の島にほど近い、住宅に囲まれた48ヘクタールもある広町緑地内の深い谷戸の奥。
谷戸の周りの尾根筋をたどっていて、ある谷筋から下に降りてみたところ、木道が折れ曲がって伸びている場所に差し掛かった。
谷戸だから両側から尾根が迫っているのだが、立春を過ぎてしばらく過ぎた今時分の太陽は比較的高度もあげているので、明るい光が良く差し込んで来るのである。

空は青く晴れ渡っていて風もない日で、空気があまり動かない谷戸の奥に降りてみると周辺部より気温が幾分高くなっていることが分かるほどだった。
この緑地は照葉樹と落葉樹の混交林で、ウグイスの好む笹などのヤブも備わっていて、周囲の茂みからは鳥のさえずりが漏れてきていたので期待していたのだが、木道の上をゆっくりゆっくり歩き、あるいはしばし立ち止まったりしていたら、あの済んだ鳴き声の「ホーホケキョ」がすぐそばの茂みの中から届いたのである。

初音にしては案外スムーズなさえずりで、たどたどしいところも、つっかえることもなく、やや高い、澄み切った鳴き声を響かせていた。
嬉しくなってしばらく立ち尽くしていたら、最初に聞こえてきた方角とは別の方角からも鳴き声が聞こえてきたんである。
わが耳には三つの方角から聞こえてきたように感じられたので、鳴き始めたのは1羽だけではないかもしれない。
鳴き方のスムーズさから推察するに、わが耳に届いたのは初めてだが、数日前から鳴き始めていたとも考えられる。

谷戸ふかし木道わたる初音かな  花葯

ものの本によれば、冬の間沈黙を続けていたウグイスは日脚が伸びてくるにしたがって体内時計のスイッチが入り、繁殖の準備に取り掛かるとともに、縄張りを主張して鳴き始めるんだそうである。
この体内時計が動き出すのが、日の出から日の入りまでの時間であり、この日の長さが12時間半を超えるとスイッチが入るようである。
ちなみに昨日の日の長さは11時間15分である。
まぁ、どんな世界にも気の早いやつはいるもので、昨日の声の主は早寝早起き型の、しかも気の短い江戸っ子型のウグイスなんである。
同類だから分かるんですナ。間違いない!

ちなみに僕の記憶に残っている最も早い初音の記録は2月9日である。
どうして覚えているのかといえば、10年前のその日早朝、東京湾に浮かぶごみの島のゴルフ場に出かけようとして家の玄関を出た途端、初音を聞いたんである。初音に送られてゴルフに出かけるなんてことは空前絶後で、ゆえに脳裏にしっかりと刻み込まれているのだ。
上旬に聞く初音はさすがに早いと思うが、まだ2月である。25日という日付は決して遅いというようなことはない。

散歩に出るたびに耳をそばだてていたが、今年もまた変わらず「春告鳥」はやってきたのだ。
家に戻って妻に報告すると、近所で評判の和菓子屋の桜餅が出てきて、塩漬けの桜の葉と上品な餡の響き合いにも大いに感動したのである。

鶯の声を聞きつるあしたより春の心になりにけるかも  良寛



初音を聞いた広町緑地の谷戸


こちらは〝春告餅〟の桜餅
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