平方録

2匹はお縄にしたけれど…

バラの花芽が次々と生まれてくると同時に、その柔らかな花芽が突如下を向いて垂れ下がったり、花芽に近いところの新しく芽吹いたばかりの葉が焼け焦げたようにチリチリに縮んでいるのを見かける頻度が増してきた。

犯人はバラゾウムシである。
体長は3~4ミリと小さいうえに、出始めの葉が重なり合っている中にもぐりこんでいることが多いので、見つけ出すのが厄介なのである。
だから一つ一つの花芽に顔を近づけ、じっと様子を伺うのだが、敵もさるもの、黒っぽい装束に身を包んでいるわりには発見しづらいのだ。
場合によっては指で花芽を軽く抑えたりすると、つぶされまいと慌てて這い出て来ることもあるが、何はともあれ、まず目で見つけることが大切になってくる。

しかし、さらに厄介なことには、よしんばバラゾウムシを発見しても、捕まえようと指を伸ばした瞬間に自らポロリと落下する芸当を持っているので、取り逃がしてしまうのである。
右手を伸ばして捕まえようとするときは、左手を下に添えてバラゾウムシが落ちてきても手のひらで受けられるように備えてはみるが、トゲのあるバラの茂みの中ではそれにも限度があるというものである。

「しらみつぶし」という言葉がある。幸いにしてシラミというものの被害に出会ったことがないので分からないが、片っ端からやっつけていくことの例えで使われ、そう表現できるということは、シラミの場合はそれほど逃げ回ることなく捕まるので「片っ端から」やっつけるのが可能なのだろう。
バラゾウムシはそうはいかない。「バラゾウムシつぶし」という言葉は、かのナポレオンの辞書にも乗っていないはずである。
そういう言葉を作らせないほどに、神出鬼没の忍者のごとき曲者なんである。

わが家にはつるバラが8本、株立ちのバラが10本あるが、それぞれ4本づつにバラゾウムシの被害が見つかっている。
去年に引き続いて無農薬栽培を心に誓っているので、農薬は使えない。
次々と被害が広がるのを目の当たりにすると本当に心が折れかけるけれど、自分の目で発見して捕まえるしかないのだから切ないんである。

それでも昨日はバラの前に立ってじっと凝視すること20分。
2匹を探し出してお縄にし、ひねりつぶしてやったのが今年初めての戦果である。旧軍の大本営発表のように、戦果の水増しなど決してしないのだ。
しかし、はたから見ると、〇〇さん家のご主人はバラの前で固まったようにじっと動かないけれど、陽気が良くなってきて頭がおかしくなったんじゃないかしら。リタイアして家にいるらしいけれど、家にばかりいるとおかしくなるのかしら。うちの主人が変にならないように注意しなくっちゃ、などと噂されているかもしれないんである。

午後、妻と大型連休前の横浜イングリッシュガーデンを視察してきたけれど、バラゾウムシの被害はおろか、何の病虫被害もなく、連休明けから咲き始めるはずの無数のつぼみはどれも元気そのもので、葉っぱの色つやも含めてほれぼれする成長ぶりである。
バラというのはかくあるべしだなぁと、うっとりとした思いで眺めてきた。

このガーデンでは冬の間も含めて年に24回もの薬剤散布を繰り返しているんである。平均すると2週間に1度の回数である。冬場は減るから、ハイシーズンを迎える前などは当然頻度は増える。
どこよりも美しく咲き誇るバラを見せるためには欠かせない作業で、特に梅雨時から夏場にかけて高温多湿になる横浜の気候風土の中でバラを育てようとすると、これくらいの薬剤散布はやむを得ないんである。
東京の神代植物園でも似たような散布回数らしい。
入園料をいただくところでは、夢は夢としてちょっとやそっとでは実現できないような管理が求められるのである。

河合スーパーバイザーにバラゾウムシとの格闘を話したら、「気持ちはわかるけれど、あまりはびこらないようにした方がいいですよ」という忠告とともに「全体に農薬をかけるんじゃなくて、花芽の先の部分にちょっとかけるだけでも効果ありますよ」とアドバイスも受けた。
無農薬、無農薬とわき目もふらずにお題目のようにつぶやくのも杓子定規なような気がするし、臨機応変という言葉も浮かんで来る。
ここはひとつ考えどころである。

さぁ~て、どうしたものか。





象のような長い鼻を柔らかな蕾の真ん中に突き刺して液を吸い、あるいは芽生えたばかりの葉の茎に突き立てて液を吸うので、吸われた蕾や茎は死んでしまう。憎っくきバラゾウムシの体長はわずか3~4ミリで、見つけるのが一苦労なのだ




病虫被害の全くない、ほれぼれする横浜イングリッシュガーデンのみずみずしい葉と蕾
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