間もなくやってくる11日はあの大災害をもたらした東日本大震災が発生した日だが、相模湾の海辺に暮らすボクらには災害以前からずっと「楽しみな日」でもある。
元旦から禁漁期に入っていたシラス漁の解禁日で、初物の獲れたてのピッチピチの生のシラスを良く冷えた日本酒とともに味わいつつ、春の訪れを寿ぐ日なのである。
シラスは水揚げされるとすぐに釜茹でにされて「釜揚げシラス」として売られるが、これは生で置いておくとすぐに痛んでしまうシラスの特性上仕方ないことだが、出来ることなら生で食べたい。
やはり生で食べるのがシラスの一番美味しい食べ方だと思う。
生シラスを食べたいと思ったら海辺の魚屋で買い求めるか、海辺の食堂に入るしかない。
そんなわけで、地元特権を使えるボクは11日を待ち焦がれるのである。
"海のミルク"といえばカキが連想されるが、ここ相模湾一帯のシラス漁師はシラスのことも"海のミルク"と呼ぶ。
当然、釜揚げシラスの事ではなく、生シラスのことを指してのことだろう。
そのわけを聞くと、「シラスをたっぷり食べて寝ると翌朝は寝返りが打てなくなる」というのである。
女性にはちょっと理解しがたいであろう答えに「ホンマかいな?」と眉に唾したが、ボクにはそういう経験がないだけで、シラス専門の漁師たちには常識だったのかもしれない。
そういうシラスではあるが、美食家として名高い北大路魯山人の書物をいくらひも解いても「白魚」は登場するが「シラス」は登場しない。
魯山人は鎌倉に居を構え、星岡窯を置いていたはずだからシラスを口にしなかったはずがない。
それなのにシラスについての言及がないというのは不思議で、ひょっとすると海辺でしか美味しく食べられない食材ということと関係があるのだろうか…
"たかがイワシの子ども"として無視したのだとしたら、天下の美食家の舌が聞いて呆れる。
そう言えば、3月1日からワカメ漁が解禁されているはずだ。
養殖物もバカには出来ないが、やはり天然ワカメは絶品である。
沸騰したお湯に生ワカメをサッとくぐらせると、黒々としていたワカメがサッと明るい緑色に変わり、その色合いの見事さ美しさには思わずヨダレが垂れる。
これも日本酒によく合うのだ。
春が来て嬉しいのはきれいな花が咲くばかりではなく、こうして"口福の春"も一緒にやって来るからなのである♪
赤灯台のすぐ右横奥に雪化粧した富士山が薄っすらと見えている
場所は鎌倉・腰越漁港
漁師が網を広げたりたたんだりしている
11日のシラス漁の解禁日に備え、網の準備をしていたのかもしれない