平方録

シルクロードのアーモンド

ユーラシア大陸の真ん中辺り、シルクロードの要衝として知られる都市の日本大使館に勤める知人が一時帰国していて、2年ぶりに再会してきた。

実は女医さんで、約20年前に頭の中に未破裂の動脈瘤があるのを見つけてくれて手術を勧めてくれた人で、いわば命の恩人なのである。
この人がいなかったら、枝分かれしている血管の根本、血流が直接当たる部分にできていた7~8ミリほどもあった動脈瘤が破裂し、命の危険を伴った重大な事態を招いたであろうことは疑いがない。
よしんば一命をとりとめたところで、社会復帰できる可能性は、当時17%程度と知らされ、ほとんど奇跡に近い数字だと思っていたのである。
それを未然に防ぐことに成功したのだから、改めて命を授かったようなものである。
当時は働き盛りの真っただ中で、責任あるポストに就いて深夜まで先頭に立って働いていたので、今つながっている命の重さは例えようもなくありがたいのである。
以来、互いの仕事上の諸問題を中心に交流が続いてきた。

勇ましい女性で、正義感の塊でもあり、何物にも恐れずに立ち向かう勇気を持った稀有な人である。
ボクより10歳以上若いが、最近は表に立って目立つようなことをしないで、裏方に徹してシナリオを描き、それを実現させていくプロデューサーのような役どころを担う技も身に付け、それを楽しんでもいるようである。
意気すこぶる軒高で、赴任地での武勇伝もいくつか聞かせてもらって、ミシュラン一つ星のフレンチレストランのランチの味などかすんでしまうくらいに「へぇ~」「ほぉ~」と大いに盛り上がった。

一度任地に遊びに行くつもりで前のめりになりかけたが、こちらの事情でそれがかなわず、残念ながら彼の地での任期も間もなく終わってしまうので、実にもったいないことをしたと思っている。
4月からは新しい任地に赴くそうだから、赴任先のリサーチが十分に済んだころ合いを見計らって今度こそ、訪ねて行ってみたいものである。

お土産に珍しい殻付きのアーモンドをいただいた。
バザールに出かけ、表に並んで日の光を浴びているモノとは違って、まだ奥の袋に入ったままの品物を出させ、しかもそれを値切ってきたのだという。
現地の言葉も3年の間にすっかり習得してしまい、日常会話には不自由がないらしい。
「銀座の高級バー辺りで珍重されているようですよ。帝国ホテルの関係者が絶賛したって話も聞きました」なんて説明するが、こちらはどちらとも縁がない。
でも、確かにこれがアーモンドだといわれて口にしてきた品々より、カリッと乾燥して歯ごたえが良く、含まれている脂もくどくなくてさっぱりしていて、上品な感じがした。
何より殻付きというところが、珍しい。

特産品というものは、そういう一味違った逸品を指す言葉のようであり、それがはっきりと認識できるアーモンドではあった。何てったって中身が濃いのである。アーモンドも話の中身も。



シルクロードからやってきた殻付きアーモンド
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