平方録

未知の道

今年の秋、新しい道を発見した。

というと、何か新しい生き方とかこれまでとは違った価値観を見つけたように誤解する向きもあるようだが、正真正銘、今まで通ったこともなく、そこに道があることすら知らなかった、文字通り「自分にとって未知の道」という意味である。

秋晴れの季節だというのに、雨や曇り空ばかりのさえない日々が続いて気分が滅入っていたころに、待ち望んだ秋晴れが戻ってきて散歩に出た日だった。
道端にはコスモスが揺れ、柿が朱色に輝いていたころのことである。
わが家から1キロ少々離れたところにその道は突如現れたのである。

丘の上に中学校が建っていて、その下には住宅地が広がっているのだが、近寄ってみる限り車が通るような道がどこにも見当たらない。
車は丘の下を大きく迂回して丘の上に出るしかないのである。
車はそれでもすむのだろうが、まさか中学生までそんな不便を強いられているのだろうか。中学生はどうやって通っているんだろう、というのが最初の疑問であったのだ。
以来40数年。1キロ少々という近距離にありながら、その一帯はわが生活圏とは全く縁がなく、従って近づくことさえまれだったのである。

で、‟探検”に出てみたわけである。
つまらないことかもしれないが、こういう時に丘の下から上り口を探すか、丘の上から下り口を探すか、方法は二つに一つである。
面積から言うと丘の上から攻めたほうが効率的なのだ。
反対側の県道から中学校に近づき、とりあえず正門方向と思われる方向に延びている枝道に入ってみた。
そうしたら、なんと「この道路は〇〇中学校の敷地内道路です。駐車はご遠慮ください」という看板を見つけたのだ。
案の定150メートルくらい進むと道は行き止まりになり、そこに正門が建っていたのである。
ただ、その先は車やバイクが侵入できないように柵で通せんぼしていたが、階段になっている。はは~ん、こいつが隠れていたんだな、という気分である。
「明智君、ようやく気付いたかね」と小馬鹿にしたような口調でいう怪人二十面相の気分と言ったらよいか。

もう一つ驚いたのは、その階段を下りていくと、谷に囲まれたところにフェンスに囲まれたプールがこつ然と現れたことである。
7レーンくらいの25メートルプールがひっそりと水をたたえている。
この階段の途中にも「この階段は〇〇中学校の敷地です」と書かれた看板が立てられていたが、なるほど、この丘の半分くらいは中学校の敷地になっているようである。
階段は曲がりくねってさらに下へと続いていており、その先はやはり住宅地の奥まったところに出たのである。分からなかったわけだ。

わが町には谷戸が多いせいか、こうしたそこそこの規模の隠れ道とは違って、獣道のような小道はいたるところに存在する。
そういう道が見つかるときというのは、尾根道を歩いたりしていると枝分かれしている細い道を見かけることがあるが、それをたどると思わぬところに出たりして驚かされるのである。
下からでは到底見つけるのが困難な道ばかりである。

そういえば高校1年生の頃を思い出した。今は鎌倉湖などと味気ない名前が幅を利かせてしまっているようだが、当時は散在ケ池と呼ばれていた池のほとりから細い道を藪こきをするように上り、尾根筋に出て獣道を進んでいったら道に迷い、ドスンと転がり落ちた先が二階堂の覚園寺境内で、この時は本当にびっくりしたものだ。
広い境内を持つ寺で、夕方だったから誰にも気づかれることもなく境内を抜けだして山門の表札を見て覚園寺と知ったのである。
50年以上前の話で、思えば獣道だったところが、今は整備されて「天園ハイキングコース」と呼ばれているのである。

暇に飽かせて鎌倉中の尾根筋をたどり、枝道を見つけては下りていけば、「隠れ道マップ」のようなものができるはずである。
ところで覚園寺の裏山の獣道は今どうなっているんだろうか。



横浜イングリッシュガーデンの‟冬バラ”
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