近所に奇跡的に残った田んぼに今、稲が頭を垂れて揺れている。
刈り入れはまだ先のことだが、良く晴れた日に黄金色に色づいた田んぼの脇の道を歩くと日なたの匂いというか、枯れ草のような匂いというか、どこか懐かしい匂いが漂ってきてとても心地よい。
とまぁ、牧歌的な描写から始めたが、実はこの心地ようさとは裏腹に稲が頭を垂れるころ、ボクは決まって鼻の先を赤く染め、時にはだらしなく鼻水を垂らしながら、連続するクシャミにも体を揺さぶられながら集中力を失って、だらしない姿をさらすことになる。
この時期はまだ夏の名残の空気が残っているのだが、そこに忍び寄って来る北の将軍の手先の冷たい空気に触れるや否や、ボクの鼻腔の粘膜は敏感に反応してしまう。
こうなるとクシャミと鼻水は止まらない。
目からは涙がにじみ出てくるし顔中がぐちゃぐちゃになるから紅顔の美少年ともてはやされ、その後の風雪にも耐え、年輪を刻んできたキリリと引き締まった顔 ? も台無しである。
寒冷アレルギー !
どうもそういうことらしい。毎年の事なのだ。
ボクはいつだってぬくぬくと暮らしたいんだ。
優しい慈母の暖かな体温のような空気に、いつだって包まれていたいんだ。
だから夏の空気こそボクにとっては最高で、少々の暑さはへっちゃらでむしろ歓迎ウエルカムなのである。
それがいきなり忍び寄って来る冷たい空気が邪魔をする。
そのことが嫌で嫌でたまらず、ボクの心よりはるか早く身体の方が拒否反応を示すのだ。
ボクの深層心理を読み解いてみると多分こうなる。
「お前ら、卑怯じゃないか。音も立てずに忍び寄って来るとはドロボーかコソ泥の類と一緒なのか。
どうして正々堂々、門前のピンポンを鳴らして来訪を告げないのだ。
まぁ大概は間に合っているからとかなんとか言って、お引き取りを願うが、何度も来れば情にほだされてゴム紐の1mも買ってあげられるかもしれないじゃないか」
こうしてくどいけれど、心より先に身体が拒否反応を示した結果としてクシャミ鼻水の垂れ流しが起こるという訳なのだ。
奴らがピンポンを押そうとしないで、あくまでも忍び込んでくる限り、ボクの体は心よりも早く、そして敏感に拒否反応を示すのである。
情けないし悲しいけど、この状態は少なくとも1週間から10日は続く。
ボクと相思相愛の夏との間はこうして引き裂かれて行くのである。
ああ…