平方録

メザシも消えてしまった

鎌倉行きの江ノ電に乗って江ノ島駅を発車するとすぐに急カーブになり、電車はレールきしませながら一般道路の上に出て線路両脇の車をかき分けながら腰越駅に向かう。
この区間は唯一、江ノ電が路面電車になって車と一緒に走る区間である。
両側には商店が軒を並べ、それなりに人も車も目立つのである。地方へ行くとシャッター通りと言って、店のシャッターが閉まったままの商店街が増えているそうだが、ここはそれを免れているのだ。

レールをきしませながら電車がカーブを曲がる目の前が「龍の口の法難」で知られ、日蓮が首を打たれかけた場所に立つ龍口寺である。
その龍口寺の門前に2、3軒の干物屋があり、そのうちの一軒で扱っているメザシが絶品なのである。
たかだか10センチ程度のメザシだが、丸々と太って、焼くと脂が滴り落ちるんである。
一体この小さな体のどこにそんな脂肪をつけているのかと思えるほど、滴り落ちる。

こいつは“悪者の脂”ではなく、DHAとEPAが豊富に含まれる脂なんだそうである。
ドコサヘキサエン酸とエイコサペンタエン酸という、いつまでたっても覚えられない名前だが、その効能は頭は良くなるし、血をサラサラにしてくれたり、まぁ、一言で言って、あまたある食品の中の優等生中の優等生なんだそうである。
骨も食べるからカルシウムも摂取出来てしまうのだ。

4匹が1本の串に通されていて、1連100円という安さである。
税込み108円。これを火に炙って脂が滴り落ちてくれば焼き上がり。
そのアツアツをオリーブオイルのバージンオイルにつけて食すんである。
塩けはほとんど気にならず、日本酒にもワインにもピッタリ合うんである。くどいようだが、これが絶品なのだ。

ちょっぴり残念なのは、3、4年前までは1連に5匹並んでいたのだが、値段据え置きのまま4匹になってしまった。
何と25%もの値上げだったのである。
その上、消費税も5円から8円になったものだから、ん?という感じであったが、うまいのだ。美味しいのだ。酒だ! 酒もってこい! なのだ。

横浜イングリッシュガーデンがまだほとんど知られていなかった4、5年前にどうしたら効率的なPRができるだろうかと考えた挙句、マスコミの責任者を招いてバラの花が真っ盛りの庭にテーブルをしつらえ、そこで供応しようと考えた。
その時の誘い文句が「バラの咲き乱れる庭でメザシを焼いてワインを用意しておきますから、ぜひ足を運んでみてください」とやったんである。
マスコミの責任者たちは港町のネコ(そうヨコハマはれっきとしたミナト町なのだが)のように集まってきて、とっぷり日が暮れてもなお腰を上げようとしなかったのである。

そして数日後、各新聞紙や電波に横浜イングリッシュガーデンが取り上げられ、連日信じられないような人波が押し寄せることになったのである。
その時に出したのが当時5匹税込105円のメザシだったのである。
タイはエビでも釣れるが、メザシで大勢のお客さんを釣ったバラ園は全国でも唯一であろうと自賛しているのである。
イングリッシュガーデンの恩人のメザシなんである。
ガーデン関係者はひそかにでいいから、あのメザシの記念碑なり、銅像なりを建てて顕彰する事を考える必要がありはしないか?

今年もメザシを焼いて供応したいから、というオファーが店にほど近いところに住むワタクシメにあって、いそいそと買い出しに行ったんである。

……!? 何ということでしょう。姿が消えてしまっているではありませんか!!
聞けば、あのメザシは千葉の九十九里で獲れるウルメイワシなんだそうだが、ここ2カ月以上まったく水揚げがないんだそうだ。
そんなバカな! 
沢山とれるからイワシだろう。“ネコまたぎ”なんて呼ばれることすらあるのに…

今年の相模湾のシラス漁は去年とうって変わって今のところ豊漁が続いているようである。
従兄は獲れているのに、千葉の外房沖では何か変化でも起きているのか。鎌倉では今もってホトトギスが鳴かないし、まあ、自然界のことだ、ちったぁ変化の波ってぇのもあって当然さ。
それにしても手に入らないとなると、無性に食べたくなるねぇ。



大アーチのバラのトンネルは今年も見事に咲き誇っている=横浜イングリッシュガーデン
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