まるで春先のようにポカポカしていて、少し動き回ると1枚脱ぎたくなるような陽気で、ダウンジャケットなど着ていたら蒸し焼きになりそうである。
午前中、生後3か月の赤ん坊を連れて散歩に出て、妹君が先に帰った後、姫は母親の卒業した小学校の校庭で鉄棒やらタイヤ跳びなどでたっぷり遊ぶ。
逆上がりなど、ひょいと簡単にやってのけ、さすがは小天狗である。身のこなしはとても軽いのだ。
道すがら、ちょっと高いところがあれば遠回りでも登って行くし、とにかく跳ねまわりたがる。
帰り道、戦没者の霊を慰める忠霊塔が建っている小山に登りたがり、大きな石碑をみて「なあに?」と聞くものだから、これは戦争で亡くなった人の魂を慰めてあげるためのもので、70年前に日本はアメリカと大きな戦争をして、350万人もの大勢の人が死んでしまったこと、広島と長崎というところには原子爆弾というのが落とされて、そこにいた赤ちゃんからお爺さんまで、みんないっぺんに殺されちゃったんだ、という話をしてあげた。
生き残った人たちも辛い目や悲しい目に沢山遭って、日本はもう絶対に戦争はしませんと指切りげんまんしたのに、去年、その決まりを破るような法律を作ってしまったんだよ。誕生日にプレゼントした本を読んだでしょう。あの本には、その指切りげんまんを破るのは止めて!って書いてあるんだよ、などと説明したら、じっと聞いている。
「だれが指切りげんまんしたの?」
「生き残った日本中の人みんなだよ」
「だれが指切りげんまん破ったの」
「アベっていうソウリダイジンだよ」
「…」
「指切りげんまんて言うのはケンポウっていう一番大切なことを決めたキソクのことで、ケンポウの中に戦争はしませんて書いてあるんだよ。みんなで決めたんだよ。ケンポウは誰も破っちゃいけないんだよ」
「だから、じいじは指切りげんまんを破るのは反対なんだ。ばあばも反対だよ。姫のママも反対してるよ」
と続けると、間髪入れずに
「姫も反対!」
夕方のテレビのニュースでアベなんちゃらが映ると「指切りげんまん破ったのはあの人だよね」という。
「そうだよ」というと、画面を睨みつけていた。
散歩から帰ったらわざわざ「じいじに戦争したらいけないんだっていう話をしてもらった」と母親に報告していたから、結構インパクトがあったようである。
多感な子どもは、砂漠に撒かれた水があっという間に吸い込まれて行くように、吸収力は旺盛である。
こうした何気ないきっかけで耳にしたような話というのは、案外記憶の底にいつまでも残るものなのである。
同じネズミ年生まれで歳の差は60歳。2人っきりで話をすると、時々こういう沁み入るような話が出来る。
小学1年生と侮ってはいけない。こちらがびっくりするような理解力を示し、鋭敏な感性がきらめくのである。
円覚寺佛日庵のコブシ(たぶん)の巨樹には花芽がびっしりついて、今にも咲き出しそうに膨らんでいる=2015年大晦日
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