「妻がどうする?」というものだから、ならば今日、明月院に行く前に寄って腹ごしらえついでに味見してこようではないかということになった。
円覚寺の夏期講座で鈴木大拙の秘書を務めたおばあさんが言っていた「即今」である。
ん? ちょっと意味が違うか。
わが家からは歩いて15分ほど。決してにぎやかなところではないが、24時間営業のスーパーの周りに数件の飲食店が集まっている一角に、今年の2月にオープンしたらしい。
人気店というと長蛇の列を連想してしまうが、繁華街から離れた住宅地域の一角という立地からか、正午過ぎのランチタイムだというのに店内は拍子抜けするくらい空いている。
本当に人気店なのかと半信半疑で、娘からのミッションを忠実にこなすべく、マーボー豆腐定食と水餃子定食、つゆなしタンタンメンの3つしかないメニューからマーボー豆腐定食を注文して出来上がるのを待った。
先客は2組いたが、いずれも若い夫婦で、1組は小学生の姉弟を連れている。
この家族連れは奥まったところの板敷にいたので何を注文して食べていたのか分からなかったが、小学生が辛いマーボー豆腐を食べるだろうか、という疑問がわく。
それとも、小学生も食べられうるようなマーボー豆腐なのか。だとすると、一体どんな味なんだろうか、そこら辺りに評判を呼んでいるという味の秘密が隠されているのか、などと余計なことを考えながら待つ。
隣の若いカップルは到着したマーボー豆腐定食に「香り」「しびれ」と2種類ある花山椒のいずれかの容器を手に取って、手慣れた手つきでひねり、しかも嬉しそうに振りかけている。
男の方が花山椒をひねっているのだが、自分への振りかけが終わると今度は妻だか彼女だかのマーボー豆腐にも振りかけてあげている。
もしかすると、彼女の方は手首を痛めているとか、花山椒の容器をひねれない何らかの事情があったに違いない。
若い人たちが皆、彼のような優しさと気配りの心を持って社会と接してくれるなら、これからニッポンは十分にアンタイである。
奥の座敷の家族連れが帰ると今度はまた若いカップルが2組やってきた。1組は赤ん坊を連れている。いくらなんでも赤ん坊にマーボー豆腐は無理だろう。
そうこうするうちに鉄鍋に入れられてジュウジュウと音がするようなマーボー豆腐が出来上がってきた。
白米のほかにはほとんど無色のスープとキャベツの漬物、杏仁豆腐が付いている。
シャレているつもりか豆腐の2頭立てじゃァないか。
さて肝心の味である。
世に我こそは、と名乗りを挙げているマーボー豆腐や専門店だと称しているところは数知れない。
中華街にもしたり顔やどや顔で出す店が並んでいる。
押しなべて共通しているように思えるのは、食べると口の中が火事になったように、食べ終わった後でも舌がひりひりするような一品をもって、こいつは絶品であると喧伝されていることである。
辛いのがいいんなら唐辛子をたくさん入れればいいし、それでも満足できないんであればハバネロでも何でもぶち込めばいいんである。
しかし、舌がマヒして味が分からなくなるようなものは料理ではない。
この店のマーボー豆腐も辛かった。でも、それも舌の上に乗せた一瞬のことで、すぐに辛さはどこかに消えてしまうんである。
これは不思議なことで、後に残らない辛さと言うんだろうか。これなら小学生でも食べられるかもしれない。
残念ながらボクの舌は微妙な味の違いなど判別できるような上等なものではないので、味全体のコクとか旨味とかには自信がないが、うまいかまずいかと問われれば、十分においしいと答えたい。
これまで口にしたマーボー豆腐とはちょっと違っていることは間違いない。
辛いのはあまり得意ではないという妻も、このマーボー豆腐は「辛いけれど辛くない。不思議だけどおいしい」と感想を口にしていた。
僕らが店を出るころには、外の椅子で待つ客まで現れた。
ラジオが騒ぐわけである。
以上、食レポってやつでしたぁ~。
店をを出て葛原ヶ岡へ登り、浄智寺に下って明月院を目指したのだが、寺に通じる道路を埋め尽くす人波に恐れをなしてすごすごと引き返してきた。
何も好き好んで好天の土曜日の人込みに突入する必要なはないのだ。葛原ヶ岡にもアジサイロードっていうのがあって、そこを通ってきたしね。
平日の雨降りにでも行ってこよう。出直しである。
明月院はあきらめて、こちらは葛原ヶ岡のアジサイロードの花
葛原ヶ岡からの東側の展望。風がとても心地良い
浄智寺にユキノシタの群落があった
これが噂のマーボー豆腐! いかにも辛そうである
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