平方録

大姉御の写真展を見に行く

梅雨入りした翌日から、いかにも梅雨らしい暗い空から1日中シトシトと雨が降ったのだが、翌日には晴れ間が戻り、しばらく中休みが続くらしい。
誠に結構な話で、今後は降るなら夜中だけ、それも4、5時間にしてもらえればなおさら好都合である。
1年中で一番日が長い季節である。暗い雲に覆われるより長い日をたっぷり味わいたいではないか。

句友の一人が駅前の生涯学習センターでグループ展を開いているというので、別の句友を誘って見に行った。
このひとは御年78歳の女性で、老人とは思えないバイタリティーの持ち主である。
日本で最難関とされる大学の工学部を出て、外資系のコンピューター会社で働き、当時は草分けの女性部長にまで昇進して活躍した人である。
退社後は女性の起業を助けるNPOを組織して、つい最近までそこの女親分として活発な活動を繰り広げていた。
それも前年度いっぱいで手を引いたかと思っていたら、再び趣味のカメラにのめり込み始めたようである。

かれこれ10年少し前の話になるが、写真を撮るのに夢中になり「カメラを構えたままじりじり下がったら、足場が消えちゃったのよ」と、崖から数メートル下に転落して足の骨を折るような人である。
今でも歩きスマホをしながら天下の大道でよく転んでいるらしい。
懲りないというのか、めげないというのか、学習能力がないというのか、学歴や経歴との落差にあきれるばかりである。

「北斎の構図をまねてみたのよ」と東京の何とか神社のフジの花と赤い太鼓橋を撮った作品ともう一つ出品していたが、大したことはなかった。
そもそも写真というものは今ひとつピンとこないんである。

昼ご飯を食べていないので付き合えというものだから、こちらはビールでも飲むかと食べ物屋を探しに外へ出たんである。
昼間の小町通りは平日でも大変な人出である。その半分は近隣の県からやってきた中学生の修学旅行生で、自由行動で羽を伸ばしているので、もう歩きにくいこと、やかましいこと、学校の先生にならなくて本当に良かった。
他校の生徒とも平気ですれ違ったりしているのだが、僕らの中学高校時代は修学旅行先で他校の生徒とすれ違うようなときは、一種の緊張感が漂ったものである。
場合によっては肩が触れたとかなんとか言って、乱暴者同士が殴り合いのけんかをするような時代だったが、今はそんなことトンと聞かないのは、意気地が無くなって飼い慣らされてしまったんだろうか。
何せ管理強化型社会になってしまっているからな。
だから大人になっても、憲法違反の法律が次々につくられて行ったって、声も出せないのだ。ことは深刻なのだ。

午後3時を過ぎた観光地で開いている食べ物屋などロクなところではない。
このままじゃ東京までたどり着けそうにないという大姉御は何でもいいというので、たまたま開いていたオムライス屋に入ったが、僕は赤ワインを2杯飲んだだけである。
かくしてバスを降り、5時15分になると門扉を閉ざしてしまう自然公園の林間の道を歩いてゆくと、橙色の透き通った羽と体全体に白い粉をふいたような細いトンボを見かけた。
じっくり見ていたかったのだが、職員が見回りに来たので後ろ髪をひかれながらその場を立ちらざるを得なかった。夕方という時間帯は昆虫などが活発に動き始めるわけで、まだ1時間以上明るいはずなのに、何とも無粋な締め出しなんである。



わが家はバラばかりではないのだ




帰り道に自然公園で見つけたトンボ。ネットで調べたらカワトンボという種類らしい。初めて見た! でもiphoneで撮ったのでピントを合わせるのは至難である


無粋な看板
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