八っつあん、熊さん「あれっ、ご隠居、難しい顔しちゃってどうしたんです?」
ご隠居「やぁご両人、久しぶりじゃのう。いやな、この新聞にな、妙竹林なことが書かれておってな、どうにも腑に落ちんのじゃ」
八、熊「何です?妙竹林なことって」
ご「原子炉の事じゃよ。原子力規制委員会ってところがな、稼働から60年を過ぎた原発でも運転できるようにしようって決めちまったのじゃ」
熊「えっ、確かフクシマの原発事故の教訓として、原則40年最長60年というルールが決められたんじゃなかったですかい」
ご「おう、良く知っとるじゃないか、感心感心」
八「それをなぜ変えなきゃいけないんです?」
ご「そこが分からんのじゃよ」
八「ご隠居にもわからないことがあるんですかい」
ご「まっ、それほど物知りじゃないが、それほどに今回の決定は面妖なんじゃ」
八、熊「ヒツジですか? へぇ~!」
ご「それは綿羊じゃろ。ワシが言うておるのは『不思議なこと』『怪しいこと』の意味の面妖じゃ、まぜっかえすんじゃないっ」
八、熊「ヘイ、すいません。でも確かに理解に苦しみますね」
ご「じゃろう。しかもな、今回は委員長を含めて5人の委員のうち、1人が強く反対しているのを無視するように採決して多数決で決めてしまったんじゃよ」
八、熊「なぜなんですかい」
ご「そこなんじゃよ、わしが首をひねっていたのは。国民の間で賛否が分かれている問題について、何とか納得を得る努力をするとか、反対論者が納得できるところまで妥協案を用意して歩み寄るとか、それでも賛成が得られなければ引っ込めて別な方法を考えるとか、丁寧な議論や段取りが必要だと思うんじゃよ」
熊「ですよねぇ、特に原子力の問題は一度事故が起きたら取り返しがつかないことになるんだから、慎重なうえにも慎重に事を運ぼう、もし、少しでも不安や懸念があればとりあえず立ち止まって考えなおそう…ってのがフクシマ以降の原子力に対する国民的コンセンサスですからねぇ」
八「おいらも同感だね。そういうコンセンサスがありながら、どうしてそんな拙速な真似をするんですかね」
ご「しかも、こういう全体的な方針変更を多数決で決めてしまう、それも『安全側に向けての改変とは思えない』という強い反対意見がありながらだからな…。ワシにはそこが全く理解に苦しむところなのじゃよ。こんなことは極めて異例な事だそうじゃ」
八「ひょとして、あの半分眠ったようなボケ面のダキシ首相が唐突に言い出した原子炉再稼働と新増設の容認方針の一環じゃないんですかい?」
ご「いい所に気がついたな八っつあんは。今回の内容はどう見たって原子力発電所を持っている事業者の利益につながるもので、国民の抱いている懸念や不安とは真逆なものじゃからのう。政府方針に沿った方針変更に違いないと勘繰るのは当然じゃ」
熊「そりゃぁ、困ったことになりやすねぇ。しかし、たかだか30%しか支持率がない内閣に好きなようにやらせてしまっていいんですかい、ご隠居」
ご「しばらくは国政選挙がないからのう。そこでもし原発再稼働と運転期間延長問題を争点にすればどうなるか…。まっ、面白いことにはなるだろうな。しかし、先にけば行くほど有権者は忘れてしまうからな…」
熊「こんな重要な事柄をなし崩し的に進めるなんて、許せませんよご隠居」
ご隠居「うん、うん。しかし、経団連を始めとする経済界は『愛い奴』と思ってることじゃろっ。自民党への献金額もさぞかし増えることじゃろうて。連中は電力が安く手に入りさえすれば、将来がどうなろうと知ったことかというスタンスじゃからな。ワシを含めて国民は完全にナメきられているということじゃ」
熊「それにしたって、やることが露骨すぎるよなぁ…。ひょっとすると国民は本気で怒りだすかもよ」
ツルウメモドキの殻が逆光の中で、まるで花が咲いたように輝いている
真っ赤のタネが枝先に残っているものもチラホラ
ここは北鎌倉の光照寺
山門の梁の上の目立たないところにあるクルス紋