韓国映画「ビューティ-・インサイド」から③
黙ったまま誤解されてチャンスを逃がすより、自分をきちんと伝えて振られたい。ウジンは彼女の不安な思いを汲みつつ話を続ける。
「もし君が僕を僕のことをすごく危なっかしく変な人だと思うんだったら…もちろん絶対に変じゃないけど、君の目で確かめてください。番号はこれ」
携帯を取り出して彼女に見せた。番号をぜんぶ確認はできなかったが、素振りから嘘でないのは理解できた。
イスは車を降りるのをやめた。しかし迷いは残り続ける。
そこもまた汲んでウジンは独り言のように話す。
「これから案内したいのはイスさんの好きな所なんだけど…」
この説明にイスの表情から迷いが消えた。かすかに期待の笑みが浮かんだ。
案内したのは明かりが消えて寝静まった工場だった。ウジンはその建屋の鍵を開け、明かりを付けた。
明かりの下には様々の家具品が浮かび出た。
「ここはアレックスの工場じゃないですか?」
「…」
「違いますか?」
ウジンは微笑を返す。先に奥に進んで買い物を置く。
イスは親しい人と話すような口調と笑顔が戻ってくる。ウジンは彼女の話に耳を傾ける。
「アレックスは上司の大好きなブランドです。どういうことなんです? 出店依頼のメールを送ったんですよ。でも返信がなくて…」
ウジンは訊ねる。
「イスさんはどう思います?」
「私も好きですよ」イスはウジンを見た。「一人のための家具、素敵ですよね。少し高いけど…」
「そのへんはどうしても…」
その先を言い淀んでいると、
「ですね」
と理解を見せてくれる。
「ここの社員?」
ウジンは頷く。
「そんなところです」
立っているのに疲れたイスが座れそうな椅子を見つける。ウジンの勧めに応じて座ってみる。
「どうですか?」
「ダメです」
と椅子から立ち上がる。ウジンは苦笑する。この工場の椅子はひとりひとりの使い心地に合わせて作られているのだった。
二人はお土産で買った弁当を開いた。
思った以上に実のある話ができ、二人にとって想像以上に楽しい食事となった。
イスは箸でひと口ふた口食した後、長い髪を後ろに束ねて食事を終えた。一般食堂では見せなかった姿かもしえなかった。
食事を終えてくつろいでる時、ウジンは空っぽのグラスの中に携帯をいれて音楽を流した。
「あらっ!」
イスがすぐ反応する。
「テーブルから音楽が流れ出るみたい…作ってみたいわ」
ウジンはイスに笑みを送る。
「開けたり広げたりするとスピーカーや隠れた空間が現れるテーブル」
「トランスフォーマ?」
イスは両手を口にやった。うんうんと頷く。
「おかしいかしら」
それからも色々と家具の話をして時間は流れた。
ウジンは静まり返った夜道を歩いてイスを送った。
「遠いでしょう? 一人で帰れるのに」
「そうだね。車で来ればよかったかな…」
二人は時々お互いを見やった。表情に信頼の和らぎが生じていた。
「着いたわ。あの柿の木がある家」
二人は立ち止まる。笑顔を向け合う。
「電話ください」
なぜか照れ臭い。笑い声で挨拶してイスは背を返す。家のドアのところでイスは手を振る。ウジンは手を振り返す。
イスが家中に姿を消した後、ウジンは心なし項垂れた。ほっとした気分と寂寞とした不安にしばし沈んだ。