雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「30だけど17です」(連載52)




韓国ドラマ「30だけど17です」(連載52)


「30だけど17です」第6話(開かない天窓)③
☆主なキャスト&登場人物


○シン・ヘソン➡(ウ・ソリ)
○ヤン・セジョン➡(コン・ウジン)
○アン・ヒュソプ➡(ユ・チャン)
○イエ・ジウォン➡(ジェニファー(ファン・ミジョン)
○チョ・ヒョンシク➡(ハン・ドクス)
○イ・ドヒョン➡(トン・ヘボム)
○チョン・ユジン➡(カン・ヒス)
○ユン・ソヌ➡(キム・ヒョンテ)


★★★

 へボムは腹をおさえて言った。
「運動して餓死寸前だ」
 ドクスも腹を押さえてへボムを見た。
「餓死って?」
「何だ、そんなのも知らないのか」
 へボムはドクスの首を両手ではさむ。
「家が金持ちでよかったな」
 遅れてチャンがトレーニングルームを出てくる。
「行こう」
 遠くを見やってチャンは首をかしげる。通りの向こうを歩いている人の姿に見見覚えがある。
「おばさんだ」
 チャンは喜び勇んで駆け出す。しかし振り向いたその人は別人だ。
「あれっ、違ったか」
 へボムたちはチャンに駆け寄った。
「視力はいいだろ?」とドクス。「明らかに別人だぞ」
「そうだな…なぜ見違えたんだろ…」
「何か食おう」とへボム。
「行こう」とドクス。
「ああ」
 チャンは頷く。もう一度その女性を見やりながら不思議な気分を覚えた。

★★★

 ソリはウジンに叔父に会いたい正直な気持ちを伝えた。
「叔父のことで頭がいっぱいなんです。少しでも似てると本人に見えます…会いたいという気持ちが募ってるせいで」
 ソリはうな垂れて続けた。
「車道に飛び出したら私でもきっと引き留めます。おじさんのように」
「…」
「おじさんは悪くないのに居候の恩も忘れて…私のせいで家を出たのなら―戻ってきてほしいです」
「それは自分で決めます」
 ウジンはデスクの椅子に腰をおろし、仕事を始めようとする。
「私が出ていくべきだとよくわかっています」
 その背に向かってソリは言った。
「でも行くあてがまだ―ないんです」
「…」
「だから、せめてひと月だけでも家に…」
 その時、ウジンの携帯が鳴った。ウジンは電話に出た。
「コンです―はい、確認します」
 電話を切るとウジンはソリを見た。
「仕事があるんだけど―」
「ええ…必ず帰って来てください」
 力ない声でぼっそり言ってソリは頭を下げた。キャリーバッグを引いて出ていく。
 振り返って見るとソリはすっかり元気を失っている。
 ウジンは元気を失ったソリが気になってならない。
 ソリのことで物思いに耽っているとチン・ヒョンが事務所に戻ってきた。
「ピンクの人が出ていったね。おっ!」
 届け物を見て軽く叫んだ。
「これは?」
 ウジンはヒョンを見上げる。

「昼飯はまだだろ? 一緒に食べよう」
「ラッキー」
 ヒョンは包みをほどく。重箱が出てくる。
「うわ~、こりゃ豪勢だ。愛情と真心がたっぷり詰まってる」
 ふいにウジンを見た。
「あのピンクは彼女?」
「僕の母さんだ」
「えっ? それはないでしょ…」
「なら、お前もバカなことは聞くな」
「冗談だよ、冗談。真顔で冗談いうのはやめて。で、誰なの?」
「…」
「何か、訳ありの匂いがするなあ。ああ~、美味しそうだ」
 ウジンは席を立った。
「匂うなら換気しろ」
 そう言って事務所を出ていく。
「答えてくださいよ」
 しかし返事はない。
「話すわけないか…」
 ヒョンはお寿司をひとつ手にした。
「ああ、いい匂い~」
 

 ジェニファーは棚の書物や飾り物にハタキをかけている。
 そこにチャンが帰宅した。ひよこの前にきた。
「ミーヤ、元気にしてたか」
 ジェニファーを見て声をかける。
「掃除中ですね」
「はい。あと34秒でお掃除は終わります。少しお待ちを」
 チャンは笑みを浮かべる。
「ごゆっくりどうぞ」
 ジェニファーは腕を伸ばし、横になった書物をつかみ取る。その時、写真が書物の上から滑り落ちる。チャンが空中キャッチで手づかみする。
 写真を見てチャンは驚く。懐かしい写真だった。
 横から覗き込んでジェニファーは訊ねた。
「アメリカンドッグを持つ子はチャン君、もう一人は?」
 チャンはジェニファーを見て答える。
「叔父さんのミスター・コンです」
 チャンは目をつぶった。あの頃のことを思い出した。
 ”写真を撮ろう”と言ったのはミスター・コンだった。
 チャンは説明した。
「”ドイツにいた頃、年に数か月、祖父の家に来ると―叔父さんが一緒に遊んでくれたんです。あちこち連れていっては気にった物をいろいろ買ってくれたりしました」

― 美しい笑いは家の中の太陽である ウィリアム・M・サッカレー

「あの頃、ミスター・コンは太陽みたいに笑えたんですね」
「そういえば、そうだったなあ…」
 チャンは頷いた。


 ソリは夜中に部屋から顔を出した。玄関やリビングの様子を窺った。自分のせいで家を出たウジンのことが気になって仕方ないからだった。
 その夜は眠らず、夜中の3時になってもあくびしながらウジンの帰りを待っていたほどだった。
 結局、部屋からリビングに顔出したまま寝付いてしまうことになった。そして、目が覚めると朝になっていた。
 朝だ。ソリは慌てて跳ね起きた。
 急いで階段を駆け上がった。ウジンの部屋に飛び込んだ。果たしてベッドの上で誰かが寝ている…。
「おじさん、いつ、帰って来たんですか?」
 しかし、ソリの声に毛布の下から顔を出したのは…チャンだった。
「おばさん…?」
「なぜ、ここで寝てるの?」
 ソリは拍子抜けした。
「別に意味は…」
 チャンはそう答えた。だが、きちんと意味はあった。何年ぶりかに見た昔の写真の中に陽気で明るい叔父さんの姿があった。昔の朗らかで優しかった叔父さんを懐かしんでここで寝てしまったのだ。
 チャンは天窓から差し込む陽光に手をかざす。
「まぶしい…開かない天窓なんて何になるんだろう」
 ソリは天窓に目をやった。
 この部屋で過ごした日々がソリの心で動き出す。
 使ってないんだ…。
「起こしてごめんなさい」
 そう言ってソリはウジンの部屋を出ていった。


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