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韓国ドラマ「病院船」から(連載99)
「病院船」第9話➡三角関係のはじまり⑨
★★★
患者の外科処置をすませた後、ウンジェは鼻血を出した。その血がどこから出たのか一瞬分からなかった。慌てふためいていると、鼻に布をあてがってくれた者がいる。
「ソン先生の鼻血だよ」
見上げるとジェゴルがそばに立ち、ウンジェの花にハンカチを押し付けている。
「上を向くな。血が気道に入る。外科医のくせに知らないのか」
ウンジェはジェゴルのハンカチを握って病室を出ていく。
化粧室で何とか鼻血を止めた。出て来ると外にジェゴルが立っている。
「大丈夫かい? ダメそうだな」
ジェゴルは行こうとするウンジェの腕を取った。
「何するの」
「いいから来て」
腕を引っ張られながらウンジェは訊ねる。
「何のつもり?」
それには答えず、ジェゴルは話し始める。
「父さんは思ってた以上にひどい人間だな」
ジェゴルはウンジェを引っ張って来て長いすに座らせた。長いすの前には足用のマッサージ器が設置してある。
「こんなにこき使うなんてな」
ジェゴルは座らせたウンジェの足を握った。
「キム先生」とウンジェ。
「15分。15分だけ」
ジェゴルはウンジェの足のふくらはぎをマッサージにセットする。
眠れなかったヒョンは巨済病院にやって来てウンジェを探した。
左足に続いて右足のふくらはぎをセットしながらジェゴルは話す。
「母が搬送された日から、ソン先生は一日も休んでないだろ」
「…」
「今日は難しい手術もした。そこまで無理をしたら、よほどに体力ある男でもぶっ倒れるよ。だから何も考えずに15分だけ、休んで…」
ふと見るとウンジェは眠りに沈みだしている。
ジェゴルは笑みを浮かべた。やっぱりな…もう眠ってる。
ジェゴルの心を信じたとたん、ウンジェは一気に眠りに引き込まれたのだった。
★★★
眠りに沈んだウンジェをジェゴルは温かな目で見守った。自然に目が覚めるまで、ここで見守ってやろうの面持ちだった。
そこへヒョンがやってきた。
深い眠りに沈んでいるウンジェ。くつろいだ姿でウンジェを見守ってやってるジェゴル。
それを観察することになってしまったヒョンの気持ちは複雑だった。
声をかけるには疲れて眠っているらしいウンジェが気の毒だった。気を利かせてやったらしいジェゴルにも悪い気がする。
ヒョンはためらいを覚えつつもそのまま引き返した。
引き上げる途中、ヒョンはこのまま寮に引き上げるには癪な思いに駆られた。寮に戻ってもどうせ眠れないだろう。1人で走る気にもならない。
ヒョンはふいにハンドルを切り返した。車を父親の入院する病院に向けた。
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「来たのか…」
父親は正常な姿でヒョンを迎えた。
「僕が分かるの? 寝ないの?」
父親はスタンド照明で机に向かっていた。
「仕事をしてたんだ」
ヒョンは傍らに腰をおろした。
「それは何?」
「今日、宅配で届いた。送ってくれたのはソン先生だ」
冊子を向けて寄こす。
開いたページでは人体内臓の図を細かく描きこまれ、傍らに手術時の対処方法について質問が添えられている。
―手術を行っている時、腱や神経が邪魔になる場合は?
ヒョンはページを繰った。
「回答は?」
父親は答える。
「分かる限りは…」
ヒョンは頷いて冊子を戻した。
冊子を受け取ると父親は鉛筆でサラサラと何事か書き込んでいく。
ヒョンは言った。
「ソン先生は僕に父さんを取り戻してくれた。でも僕は彼女から母親を奪ってしまった…」
父親は冊子から目を上げた。ヒョンを見た。
「だけど僕は…諦められない」
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「諦めちゃダメだ」父親は言った。「最後の瞬間まで医者は…患者を諦めたらダメです」
「…」
「その瞬間に先生は医者でなくなる…」
ヒョンは難しい質問を向けた自分を自嘲した。カオスに戻った父を車いすに乗せて暗がりを散歩した。
ハン・ヒスクが新聞を持って来る。
「早いわね」
「目が覚めたよ」
ジェゴルも2人の前に姿を見せる。
「おはよう」
「なぜ、いる?」
新聞に目を向けたままキム・スグォンは訊ねる。
「荷物を取りに来たのよ」とヒスク。
「ありがとう」とジェゴル。
スグォンは顔を上げる。
「お礼を言いに来た。パクさんのこと感謝してる」
「お前に感謝される覚えはない。家族なら当然だろ」
ジェゴルは笑顔になる。
「じゃあ、行くから」
「朝食をくれ」
「食べる?」
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返事がない。ヒスクはジェゴルを見る。
「ジェゴルも一緒に?」
スグォンは新聞をピシャッと鳴らす。
ヒスクはジェゴルを促した。
ジェゴルも付き合い3人での朝食になった。
ジェゴルとスグォンは互いを気にしながら食事を進める。
同時に切り出す。
「ところで」「父さん」
「あら、今日はバカに気が合うのね」
「何だ?」とスグォン。
「いえ、父さんから」
「お前から言え」
「ソン先生のことだけど」
「ああ」
「働き過ぎじゃないかな」
「それで文句を言いに来たのか? 悪徳雇用主に抗議を?」
ジェゴルは笑った。
「いや、そうじゃないんだ」
「シフトを増やしたのは本人の希望だ」
「本人が?」
「何か問題を抱えてるらしい」
「問題?」
「金銭問題だろう。給料の半分は差し押さえられてる」
スグォンはジェゴルを見た。
「お前が助けてやれ」
「僕が?」
「どういう意味?」とヒスク。
「事情は知らないが、彼女自身の借金とは思えない。家の問題なら私たちが解決してやれる」
「あなた、まさか…」
スグォンはヒスクの言葉を手で遮る。睨みつける。
「お前、ソン先生をどう思う?」
「…」
「私は彼女を家族として迎えたい」
「あなた、何を言い出すの」
「何だ…お前は嫌か?」
ジェゴルは含み笑いしている。
「そうじゃないけど…」
ヒスクは困惑してジェゴルを見る。
「この子の意思もあるでしょ」
「感動的だな」とジェゴル。「父さんと意見が一致するとは」
「何言ってるの」とヒスク。
「やってみるか?」
「はい。全力を尽くすよ」
「だったら、機会を見て食事の席を設けよう」
「2人ですごく意気投合だわね」
「何か、問題があるか?」
「ないわ。私も異存はないの。やりましょう」
3人は食事に戻った。おかずの上でジェゴルとスグォンの箸がぶつかった。ジェゴルは父親に優先権を譲った。