韓国ドラマ「病院船」から(連載100)
「病院船」第9話➡三角関係のはじまり⑩
★★★
「それで文句を言いに来たのか? 悪徳雇用主に抗議を?」
ジェゴルは笑った。
「いや、そうじゃないんだ」
「シフトを増やしたのは本人の希望だ」
「本人が?」
「何か問題を抱えてるらしい」
「問題?」
「金銭問題だろう。給料の半分は差し押さえられてる」
スグォンはジェゴルを見た。
「お前が助けてやれ」
「僕が?」
「どういう意味?」とヒスク。
「事情は知らないが、彼女自身の借金とは思えない。家の問題なら私たちが解決してやれる」
「あなた、まさか…」
スグォンはヒスクの言葉を手で遮る。睨みつける。
「お前、ソン先生をどう思う?」
「…」
「私は彼女を家族として迎えたい」
「あなた、何を言い出すの」
「何だ…お前は嫌か?」
ジェゴルは含み笑いしている。
「そうじゃないけど…」
ヒスクは困惑してジェゴルを見る。
「この子の意思もあるでしょ」
「感動的だな」とジェゴル。「父さんと意見が一致するとは」
「何言ってるの」とヒスク。
「やってみるか?」
「はい。全力を尽くすよ」
「だったら、機会を見て食事の席を設けよう」
「2人ですごく意気投合だわね」
「何か、問題があるか?」
「ないわ。私も異存はないの。やりましょう」
3人は食事に戻った。おかずの上でジェゴルとスグォンの箸がぶつかった。ジェゴルは父親に優先権を譲った。
★★★
病院船の朝がやってきた。診療の準備が始まる。
船は出発し、島に入る。今日も各地で順調に診療が消化されていく。
女子の診療スタッフはジェゴルの精力的な仕事ぶりと患者への明るく優しい応接に首を傾げた。いつものぶっきら棒なスタイルが影を潜めているからだった。
ゴウンが早速訊ねた。
「何か変な物でも食べてきました?」
「いいえ、いつもと変わりませんよ。一度きりの人生、笑顔で生きないと」
「まあ、驚き。今日からキャラ変えました?」
立派なお宅の診療を終えたウンジェは大きな袋でお土産をいただいた。断っても無駄である。お土産を押し付けて島の人は家に引っ込んだ。
やむなく袋の中を覗いていると後ろからヒョンがやってきた。
「賄賂もらったね」
ウンジェからすぐ袋を握り取った。
「独り占めはダメだからね」
「今日、勤務は何時から?」
「今日は休みよ」
「では、夕食を一緒にどう? 話があるんだ」
「いいえ、今日は都合が悪いの。先約があるから」
ウンジェは袋を取り返し、先に立って歩き出す。
約束でウンジェの向かった店の表にはヨンウンの姿がある。
「遅れてごめんなさい」
「私が早かっただけです。どうぞ」
ウンジェは腰をおろす。目と目が静かに火花を散らす。
「用件は何です?」
「お茶を飲みながらゆっくり話しましょ」
せっかくの機会、それも悪くない。
気持ちを落ち着けた矢先、ウンジェの携帯が鳴った。弟からの電話だった。携帯を切る。
「いいのよ。出てください」
また鳴った。電話主を確認する。
「いいえ、後にします」
ウンジェは電源を切ってヨンウンと向き合う。
固定電話が鳴った。他に誰もいない。ヒョンが電話に出た。
「はい、病院船の寄宿舎です」
ヒョンは辺りを見た。
「今、外出中です…どこですって?」
ヒョンは携帯を外に出た。誰かに電話をかけながら走った。しかし、つながらない。
ウンジェはゆっくりとコーヒーを飲む。
それを見ながらヨンウンは切り出した。
「ソウルの病院に移る気は?」
「…」
「セヨン病院はどう? ソウルのデハン病院には劣るけど、国内トップの病院です」
「…」
「私が協力するので考えてみてください」
「どうやって協力を?」
「伯父が理事会の会員だから頼んでみます」
「親切なのね」
「いいえ、自分のためです。ああ、そうね~両得になるかな。私は邪魔な女を排除できて、先生は名門の病院へ行ける。さしづめ、ギブアンドテイクね」
黙って聞いていたウンジェは立ち上がった。
「帰ります」
「断ると」
「ええ」
「理由は何? なぜ、低レベルな病院船に?」
「口を慎んで。病院船は島民の生命線よ」
「だから残ると?」
「ええ」
「残りたい理由は病院船? それともヒョンさん?」
「…」
「答えて。彼が好きなの?」
「そうよ」
「何ですって」
「…」
「本気ですか?」
「もちろん。私の人生の計画表に恋愛を加えるとすれば―その相手はクァク先生よ」
「どういう意味?」
「私が恋愛に関心のない人間でよかったわね」
「なぜ? なぜ興味がないの?」
「あなたに話す必要が? そんな話をするほど親しくないはずよ」
ウンジェは背を返した。