二人は悄然と海を見つめた。
やがてコン室長は顔を上げた。決然とした調子で言った。
「後ろ指を指されてもいい。遠い親戚でもいいではないですか」
「いけないわ」
ケジュは首を振った。
「いくら否定しても私たちは…遠い親戚なんだから」
「それが何ですか。愛してるのに、こんなに愛してるのに、そんな理由で結ばれないなんておかしいよ」
コン室長は涙声で説得を続けるが、ケジュはまたしても首を振る。悲しそうにコン室長を見つめる。
「運命のいたずらだと思って…パングや、さよならしよう」
ケジュは涙をこらえて立ち上がる。そのまま口を押さえて走り出す。
「ケジュさん、待って。待ってケジュさん!」
しかし、ケジュは振り返らずに走り去った。
コン室長は葉を散らした樹木にもたれ、必死に声を枯らす。必死に幹を叩く。
「なぜ? なぜ? なぜなんだ? なぜ僕たちが遠い親戚なんだ? ケジュさん!」
ユギョンはビリーのホテルへの就職を決めた。
スタッフはユギョンの業務について説明した。
「あなたにはゴルフの試合の広報を任せるわ。頑張って」
「はい、頑張ります」
「詳細はオフィスで教えます」
「わかりました」
この時、ビリーがユーウツそうな顔でやってくる。スタッフたちが次々彼に向けて一礼する。ユギョンを面接したスタッフも一礼した。ビリーは何の反応も見せず通り過ぎていく。
「ちょっと待ってて」
スタッフはユギョンを待たせて離れる。手持ち無沙汰になったユギョンの耳にスタッフの話し声が飛び込んでくる。
「最近、社長の顔色が悪いわね」
「奥様の死後、ずっとだよ」
ユギョンはそのやりとりに興味を引かれた。歩いて行く男の方に目をやった。
「死んだ奥様を忘れられないのね。一途だわ」
ビリーの後姿をじっと見やっているとユギョンに声がかかる。
さっきのスタッフだ。
ビリーとコン室長はバルコニーに出て海を眺めている。
心にぽっかり穴をあけたまま、コン室長はチョルスの件について報告した。
「チャン・チョルスは明日出発します」
ビリーの表情も暗い。しかし、彼には期待に残されている。
「明日にはすべて片付く」
「社長には明日があっていいですね」
ビリーはコン室長を見た。
「コン室長、何を落ち込んでるんだ?」
コン室長は涙ぐんだ。
「社長・・・愛するってつらいですね」
涙ぐんでるコン室長に戸惑いながらもビリーは辛い気持ちなら分かる気がした。肩を叩いて無言の慰めを送った。それから自分もため息をついた。
アンナはマッコリを飲み、スルメをかじった。一緒に飲む相手はケジュだ。
「情に流されてはダメよ」ケジュは言った。「情というものは怖いものよ」
アンナはケジュをじっと見た。
「私は情に流されたりなんかしないわ」
ケジュは酔いに任せて言った。
「愛というのは・・・簡単にはかなわないわ。いつも運命に翻弄されるものよ」
「私は恋愛なんてしないわ。そしたら運命に翻弄されることもない」
ケジュは酔ってうっとりした目をアンナに向ける。
「あなたは強くて羨ましいわ。ここを去る時も情を捨てて行きなさい」
「…」
「チョルスもあなたのそんな性格を知ってるから・・・部屋を作るのもやめたのかもね」
アンナはスルメをかじるのをやめた。
「チャン・チョルスが…私の部屋を?」
「そうね。出て行くとわかってて、部屋を作っても無駄よね。何もならない」
ケジュはアンナを見た。
「あなたらしく、強いままで…情に流されないでここを去りなさい」
アンナはケジュを見つめ返した。ふいにチョルスの心を読めた気がした。アンナは立ち上がった。
「ごちそうさま。これで失礼するわ」