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韓国ドラマ「病院船」から(連載93)
「病院船」第9話➡三角関係のはじまり③
★★★
ヒョンは自分の診察室に戻った。これまで見て来たウンジェの人間性から、「さっきの彼女の言葉は嘘」と直感はしている。だが、チェ・ヨンウンのせいでウンジェが意固地になってるとの予測も完全には抜けていかない。
あえて誤解させてヒョンを追い出したウンジェの気持ちも複雑だった。ヒョンの父親に会って彼への理解が進んでいる一方、今日の連中に借金して追い回されている自分の父親を情けないと思った。このことをヒョンに知られるのは嫌でならなかった。
元々、母をあんな風に遠ざけてしまったのも、父に振り回されて生きてきた母の姿を見たくないからだった。
結果としてウンジェは自分と同じく両親の被害下にある弟の世話だけする人生を選んでしまったのだった。
★★★
携帯が鳴った。ウジェは弟だ。
「もしもし」
「姉さん、僕だよ」
「分かってる。どうした?」
「じつは…50万ウォンだけ送ってくれない?」
「この間、送ったばかりじゃない。ダメ」
「学期の始めは何かと入り用なんだ」
「自分で何とか工面しなさい」
「頼むよ、姉さん」
「仕送りを止めてもいいの?」
「…」
「それはそうと…誰か来なかった?」
「誰かって…、えっ? 借金取りが父さんを探しに来た? 父さんが韓国にいるの?」
「そうよ。だから、父さんから連絡が来たら知らせて。いいわね。切るわよ。…それから、明日、30万ウォン送るから。今回だけだからね」
ウンジェは携帯を置いた。
診察室の外でゴウンはため息をつく。ウンジェの電話をたまたま耳にしてしまったからだった。
姉との電話を終えたウジェは父親を見た。借金を作って逃げ回っている父親は息子の部屋に身を寄せていたのだった。
ジェジュンは息子に訊ねた。
「姉さんは何だって?」
「姉さんにも韓国にいるとバレてるよ」
「何?」
ジェジュンは慌てて身の回り品をカバンに詰め込み始める。
「何をするの?」
ウジェは父親の行為を咎める。
「逃げるんだ。俺は借金取りよりもウンジェが怖い」
ジェジュンはカバンを持った。立ち上がった父親をウジェは止める。
「いったい、どこへ逃げるってんだよ」
「どけ。行くから」
「じゃあ、せめてご飯でも食べて行けよ」
「…。どうせ、腹ペコなんだろ」
ジェジュンは黙り込んでしまった。
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病院船は某島へやってきた。船長と事務長はメガホンを握ってトラクターに乗せてもらい、島の人たちに診療訪問を伝えて回った。
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2人は中風を患っているパク・スボンの家を訪ねた。
庭先から大きな声で呼ぶが返事がない。ヤギの声がするだけだ。
「どこだろ…」
「外出してるんじゃ? いないみたいだな」
「外出などめったにしないんだけど…」
どこからかうめき声がした。
2人はびっくりして聞き耳を立てる。あっちこっち捜しまわる。そして倒れて苦しんでいるパク・スボンを見つける。
「これは大変だ」
「ともかく運ぼう」
事務長が彼を背負い、急いで病院船に戻った。
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「ソン先生、大変だ。早く来てくれ」
外に飛び出してきたジェゴルが叫ぶ。
「爺やじゃないか」
「そうだよ。キム先生の爺やだ」と船長。
そこへウンジェが飛び出して来る。
「早く診察室へ」
「下腹が痛むそうだ」と船長。
「なぜ、連絡しなかったんだ」
すぐ横でジェゴルが爺やを叱りつける。
「何かあったら電話しろと言ったろ」
事務長は”ヒイーヒー”言いながらパク・スボンをベッドにおろす。
ゴウンが事務長の労をねぎらう。
「腰痛が悪化しちゃうわね、事務長」
ウンジェがゴウンに指示を出す。
「血液検査を」
ジェゴルがパク・スボンの病気について話す。
「長いこと、肺気腫を患ってる」
「熱は?」
「38.5度です」
ウンジェは腹部の触診を行った。
「ヘルニアだわ。手では戻せない。熱も高いからおそらく絞扼性イレウスね…腸に血液が行かず壊死を」
「手術すれば助かる?」とジェゴル。
「まずは検査しないと…」
ウンジェは超音波で症状の確認を行った。
「絞扼性イレウスだわ」
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アリムが血液検査の検査表を持ってきた。ヒョンが手にして見た。表情は曇る。
「脈拍が速いわ」ゴウン。
「手術を急ぐわ」とウンジェ。
聴診器を外し、手術の準備に移ろうとするウンジェの腕をヒョンがつかむ。目が合うと首を横に振る。
ウンジェは検査票を受け取った。
「INR数値が…」
ヒョンを見つめ返すウンジェの顔は青ざめた。