雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「30だけど17です」(連載50)



韓国ドラマ「30だけど17です」(連載50)


「30だけど17です」第6話(開かない天窓)①
☆主なキャスト&登場人物


○シン・ヘソン➡(ウ・ソリ)
○ヤン・セジョン➡(コン・ウジン)
○アン・ヒュソプ➡(ユ・チャン)
○イエ・ジウォン➡(ジェニファー(ファン・ミジョン)
○チョ・ヒョンシク➡(ハン・ドクス)
○イ・ドヒョン➡(トン・ヘボム)
○チョン・ユジン➡(カン・ヒス)
○ユン・ソヌ➡(キム・ヒョンテ)


★★★


 ウジンに対する印象をチャンがさらに悪化させたことをソリはぼやいた。
「切れなんて言ってないのに切っちゃって…もう、余計に気を悪くさせたわ」
 頭を掻きむしってるところにジェニファーがサングラス姿で出てくる。
「おでかけですか?」
 ジェニファーはソリを見た。
「ミスター・コンのためにお弁当を作るので、食材の買い出しに出かけるのです」
 踏んだり蹴ったりの日でムシャクシャしているソリはその話に乗った。
「ちょうどいいわ。私も一緒に行きます」
 ジェニファーに続いてソリも飛び出してくる。
「それ、私が持ちます」
「ノーノ―、私の仕事です」
「…」
「それとそのライオンのような髪は何とかなりませんか?」
 ソリは頭に手をやった。照れ笑いした。
「さっき、掻きむしっちゃったから。お弁当を作る時、私も手伝いますね」
 
 少し離れた場所から出かけて行く2人の様子をじっと窺っている女性の姿があった。


★★★


 食事作りを手伝いながら、ソリはジェニファーのあまりの腕前に手を叩いて感激した。
 傍ら、せっせと食事づくりの下働きを手伝った。それが彼女の鬱々した気分を晴れやかにしていった。
 ウジンの食事と事務所のスタッフへの差し入れは出来上がった。
 出来上がった弁当と料理の包みを見てソリは言った。
「あの~、私も一緒について行ってもいいですか?」
 それを待っていたかのようにジェニファーは言った。
「ソリさんにお願いできますか?」
「えっ?」
「白菜の塩漬けが浸透圧で濃度の平衡状態です。洗わないと塩辛くなります」
 ジェニファーは注意点を難しく説明した。一緒に買い物に出た時から、ソリに届けてもらおうと決めていたらしい。
「浸透圧…ですか?」
「私の代わりに届けてほしいと言っているのです」
「ああ…」ソリはようやく理解した。「ぜひ行かせてください」


 
 弁当と料理を収め、ソリはキャリーバッグを握った。
「行ってきます」
 挨拶して背を返そうとするソリをジェニファーは呼び止めた。
「事務所までの往復時間を―最低時給とかけて算定した労働の対価です」
 さっと封筒を差し出す。
 ソリは両手で断る。
「いいんです。こんなの労働とは呼べません」
「”労働は大切だ。労働は美しい。労働は美徳の源である。”エイブラハム・リンカーン」
「…?」
「労働に対する相応の対価です」
 ソリは断ろうとする。
「でもいただけません」
「労働は大切だ…エトセトラ」
 ジェニファーはリンカーンの言葉を繰り返し、ソリの手にペタンと封筒を置いた。ダメ押しで鬼のような顔をソリの鼻先に突き出した。
「頂きます、頂きます―ありがとうございます」
 申し訳なさそうにお礼を言ってソリは家を出た。




 キャリーバッグを引いてソリはウジンの働く事務所へやってきた。
「こんにちは。誰かいませんか~? もしも~し…」
 事務所は営業状態で明かりもついていたが、スタッフの姿はなかった。
 ソリは誰かに呼びかけながら、そろそろと事務所の中に進んだ。
 人の気配と仕事の熱気はあるのに誰もいない。
 ソリはあたりをキョロキョロみやった。
 ウジンの部屋で見た物がここにもある~ウジンらの動き回る姿を想像したりしながら、ソリは腰をおろした。
 ここに戻って来るのをゆっくり待とう、と気持ちを落ち着けたとたん、ジリーンと電話が鳴った。
 ソリは飛び上がらんばかりに驚く。
 まさに電話のベルの音である。

 少しためらった後、ソリは受話器を握った。耳に押し当てた。
「もしもし…」
「チェウムですか?」
「…」
「リン・キムです。カン代表が携帯に出ませんが、そちらにおられますか
?」
「じつは…今は誰もいません」
「では、伝言をお願いします」
「…」
「クラシックは難しいという声があるので、私がヨーロッパの音楽祭の動画をメールで…やっぱり、伝言は結構です。カン代表と直接、話します」

「…ヨーロッパなら―BBCプロムスやスイスのヴェルビェ音楽祭のような?」
「そのとおり」
 リン・キムの表情は急に明るんだ。
「皆で楽しむ雰囲気にしたい」
 話の先が読めてソリの気持ちも弾む。
「観客と一緒に合唱もして」
「そうそう…クラシックに親しみと興味が湧くような」
「堅苦しくなく一緒に楽しめる…音楽の祭典」
 ソリの話に乗りかけたリン・キムのところに助手がやって来た。
「打ち合わせで出かける時間です」
 リン・キムは頷く。
「出かけるので切りますね。カン代表に資料を見て連絡くれるよう伝えてください。よろしく」 

 やり取りを終えたリン・キムの顔に笑みが浮かぶ。
「うれしそうですね。何かよい知らせでも?」
「ああ」リン・キムは遠くを見る目になった。
「久しぶりに話の通じる人に出会ったみたい…名前を聞きそびれてしまったわ」
 軽くため息をついた。



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