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アンナはさっさと歩いて家の中に入った。チョルスはアンナのカバンを持ってついて入った。
見通しのいい場所で近くにもいたのに、ほとんど無視された格好だ。
ビリーは無念な思いだった。
「プリンセスを抱いて近くにもいたのにぜんぜん目に入らなかったようだ…それにしても険悪なムードだったが、何があったんだろう…? ン?」
突然、ビリーの顔に喜色が広がった。
「うっほ、二人に何かあったのか!?」
アンナは自分の寝床に腰をおろした。
不機嫌に黙りこくっている。
チョルスはカバンを下におろした。
「腹立たしい気持ちはわかるが、ここにいたらいい。過去の手がかりは俺しかいないから」
「…」
「行く当てが見つかるまで俺が責任取るよ。悪かったのは俺だ…本当に悪かった。ごめん」
「…」
その夜は大雨になった。
雨音に恐怖が蘇って混じりこみ、チョルスは悪夢にさいなまれた。
仮想現実の金縛りだった。
ふと目を開けると枕元に誰かが立っている。
ピカリと稲妻が走った。そこに浮かび上がったのはアンナのあの顔だ。
金縛り――普通は身体も動かない。
しかし、恐怖の度が過ぎてチョルスは本能的に身を起こす。
「殺してやる!」
アンナは叫んだ。スコップを振りおろしてきた。
仮想現実はチョルスの脳内で電光となって体内の隅々に向かって発射された。
そのエネルギーでチョルスは身を起こした。
夢だったのか!
頬に手をやる。すごい汗だが、スコップに潰されたはずの顔は無事だ。チョルスはほっと胸をなでおろす。
しかし、誰かの気配はそばにある。
そっちを見てチョルスは思わずのけぞった。
アンナが部屋にやってきていたのだ。
「サンシラッー…?」
「その名前で呼ばないでと言ってるでしょ」
「どうしてここにいる?」
「怒りを抑えて冷静に考えてみたわ」
「…」
「今すぐ殺してやりたいけど、今は本当の私を探す方が先決よ」
チョルスは笑顔になった。
「その通りさ」
「でも…あんたの顔は見たくない。だから一緒に住めない」
「でも、ここにいろよ」
「ええ。私はここにいるわ。だから、あんたが出ていって」
「…?」
「今すぐでていって!」
チョルスはアンナに家を追い出され、寝床を事務所に移した。
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