
チョルスの帰りは遅かった。アンナを始め、子供たちは眠りについていた。
チョルスはアンナの寝床の前に立った。
アンナの眠りは深くチョルスに気付かない。
「そうだな…清算した方があとくされもないかもな…」
部屋には深夜の冷気が入ってきている。
チョルスは身を震わせた。
「ちょっと寒いな」
窓に歩み寄って開いているカーテンを閉じる。
部屋に戻ろうとした時、アンナの寝姿を気に留める。彼女は毛糸のフードをかぶり、身を縮こまらせて寝ている。
「サンシラーッ」
声をかけ、身体を揺さぶる。
「ここは寒いから俺の部屋で寝ろ」
アンナは目を開けた。チョルスを見た。
「けっこうよ。急に優しいフリなんかしないで。ここが一番落ち着くの。いいからあっちへ行って」
「なら、好きにしろ」
チョルスはアンナのそばを離れた。
アンナは目を開けた。ドアの音がした。アンナはチョルスの部屋と反対側に寝返りを打った。
「優しくなんかしないで…気持ちを整理しなきゃ…」
部屋に入ったチョルスはベッドに腰をおろした。
あれじゃいくら何でも寒かろう…思いついて押入れから電気毛布を引っ張り出した。
寝ているアンナのところに運んだ。布団の上に投げつけた。
「好きなように使え」
無愛想に言いおいて部屋に戻った。
アンナは投げつけられた布団にそろそろと手を伸ばした。目に止まったコードを握った。
「何? 変な布団ね…これ、何に使うの?」
朝になり、小鳥が鳴きしきっている。
チョルスは部屋から出てくる。
アンナの寝床が気になって見た。昨夜渡した電気毛布をびっしり身体に巻いて寝ている。しかし、電源の差込プラグはそのままにし、電気毛布の機能を使っていない。
案の定か…チョルスの口もとから笑みがもれた。
「おい、サンシルッ」
アンナは身体を起こし、寝ぼけ眼をチョルスに向けた。
「電源を入れないと温かくなんかないだろ。どうして入れなかったんだ」
アンナは気になっていた差込プラグを手につまんで見せた。
「これを入れるの? そんなら最初に言ってよ」
チョルスは電気毛布の使い方をアンナに教えてやった。
アンナは何も知らない新妻のようにはしゃいだ。
「あっ、チャン・チョルス、布団がポカポカしてきた…!」
「だろ? 冬は電気毛布が最高だ」
「ほんと、不思議だわ。布団の中に何が入ってるの?」
チョルスはアンナのそばに来て座った。毛布を手で押さえ、指で熱線を探り当てた。
「ここをさわってみろ。これが熱線だ」
「…」
「こんなことも知らないのか?」
アンナはチョルスを憎らしそうに見た。
(偉そうに!)
アンナは思いついて言った。
「チャン・チョルス。枕とソファーにも熱線を入れられない? そしたらもっと温かくなるわ」
「そんなに寒いか?」
「…」
「これからはもっと寒くなるぞ」
「寒いと頭が冴えるものよ。今の私にはそれが必要なの」
「そうだな。もっと寒くなる前に帰って行かないと…」
チョルスの言葉にアンナは意地を張る。
「これがあれば平気だわ。チャン・チョルス。どうして今頃になってこれを出すのよ?」
アンナは枕を手にした。
「あっち行って」
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