韓国ドラマ「病院船」から(連載5)
「病院船」第1話➡病院船に導かれし者⑤
★★★
キム・ドフンは手術の見学室に顔を出した。
「経過はどうだ?」
手術にあたったスタッフは丁重に頭を下げる。
「縫合中です」とウンジェが答えた。
「ソン先生は出て来てくれ」
歩きながらキム・ドフンは訊ねる。
「患者について聞かせてくれ」
「午前5時7分に発生した交通事故により、肝臓と脾臓を損傷。肝右葉を切除し、破裂した脾臓は摘出しました」
この後、キム・ドフンがマスコミのインタビューに臨んだ。
―ドゥソングループの後継者が搬送されたと聞きます。容体は?
キム・ドフンはウンジェから聞いた通りの説明を行った。
科長に付き従ってきたウンジェは、キム・ドフンが受け答えしてる途中にマスコミの前から姿を消した。
★★★
ウンジェの姿を見送りながらキム・ドフンは答える。
「今は手術を終え、回復中です」
「誰が執刀を?」
「あなたですか?」
「誰がやったかは重要ではありません」
「意識の回復時期は?」
「容体は良好ですか?」
矢継ぎ早にマスコミの質問は続く。
休憩室に戻ったウンジェは一息ついた。ソファで横になった。
しばらくしてジェファンも戻ってくる。目をつぶっているウンジェに声かける。
「悔しくないですか?」
ウンジェは目を開ける。眩しそうにジュファンを見る。すぐ顔を背ける。
「科長が記者に囲まれてましたよ」
「悔しいわ」
ジュファンは身を乗り出す。
「でしょう? ソン先生の手柄を横取りして…」
「そうじゃない」
ウンジェは身を起こした。モバイルを手にする。
「私が縫合すれば20分は早く終えられた。キム先生のせいで、患者の苦痛が長引いたことが、死ぬほど悔しい」
そう言って立ち上がる。
「先生…!」
「無駄口を叩く暇があるなら」ウンジェはジュファンの手首をつかんだ。「もっと腕を磨きなさい」
言い残して部屋を出て行った。
出て行くウンジェを見送ったカン・ヨンスがウンジェのいた場所に腰をおろした。
「どうしたんだ?」
「僕が間違ってますか?」
「そりゃそうだろ」
ウンジェのように横になる。
「てっきり悔しいんじゃないかと」
「あれは計算だよ」とヨンス。
「計算?」
ヨンスは身体を起こす。
「ソン・ウンジェの夢は最年少の女性外科科長だ」
鼻先で笑った。
「だから教授に手柄を譲ったんだ」ふっと息をつく。「科長になるためなら何でもするさ」
ジュファンにはヨンスの話がまるっきりぴんと来ない。狐につままれた気分が残った。
夜、ウンジェはモバイルに収まったデーターを手に、患者のバイタルチェックをして回った。
朝方、緊急オペを行ったチャン・ソンホのところへもやってきた。
回復は順調のようだ。
そしてデハン病院の夜は過ぎて行った。
病院船寮は海を見渡す場所にあった。
犬小屋では腹をすかせた犬が食事の時間を待っている。
寮内ではクァク・ヒョンの前にジェゴルとジュニョンが現れた。
「話をしよう」
「誰ですか?」
「キム・ジェゴル。韓方医だ」
ジェゴルはもう一人を見た。
「歯科のチャ・ジュニョンです」
ヒョンはマグカップを握って2人のそばに歩み寄る。
「僕は内科医の…」
「クァク・ヒョン」
「どうして僕の名を?」
「君はスターだからな」とジェゴル。
「スター?」
「父親が著名な医者ならその息子も有名人だ」
「…」
「病院船は父親の意向か?」
ヒョンの表情は沈んだ。
「国境なく医師団のクァク・ソンは紛争地帯を回っては患者を治療する。”韓国のシュバイツアー”と呼ばれる立派な医者だ」
「…」
「父親の名誉のためか?」
ヒョンは苦い笑みとともに答えた。
「違うんだけど」
ジュニョンは驚きを見せた。
「じゃあ、なぜ病院船に志願を?」
ヒョンはマグカップを掲げた。
「発想の転換さ」
「発想の?」
病院船のデッキ―で憩いながらヒョンは言った。
「病院船を遊覧船だと思って楽しむんだ」
「いいだろ」とジェゴル。
ジュニョンは釣竿を持ち出し、魚を釣り始めた。
医者たちを見てアリムが言った。
「3人ともどうかしてるわ」
「どこか? いいじゃないの」とゴウン。「でも、どうせなら脱いでほしいわ」
ゴウンの言葉に納得できないアリムは彼らのところへ歩いて行った。