みかづきの夜

チシャ猫笑った にぃ~って笑った

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大量にUPしたり、暫く放置したり・・・・ まあ呆れずにお付き合いくださいませ(笑)    御用の方は、ブログ左側『メッセージを送る』からどうぞ       

ずっと 青空だった  3

2011年06月18日 | 家族
飲み終わった紙コップを握り潰す
普段、決してそんな事はしないのに・・・

 母が待っている、早くリカバリールームに戻らないと
 私が居ないと不安がる

いつもおどけて憎まれ口叩いて
そんな母だけど、不安なんだろう
付き添いも一人のはずだったのに、私に泊まってほしいと言う
私だけが泊まると言うと、一緒に泊まると言って聞かない
母も不安なのだ・・・心配でたまらないのだ

リカバリールームの父は、明け方から少しだけ眠りについている
やっと痛み止めが効くようになったようだ

 痛い・・・痛い・・・

そう呻くように言う父を、私は初めて見た
我慢強いというのか、腎臓結石が暴れて七転八倒の苦しみでも
身体を丸めて耐える父なのに

呼吸器と沢山の計器類につながれている父
なんと弱弱しい
私にとって父は、強くて優しい人だったはずなのに
そこに横たわる人は、77歳の老人だった

ああ・・・そうだった
人は皆、年老いていくんだ
癌でなくても、あと10年・・・いや5年・・・
私は父の最期を見とどけなければいけない
それが子供としての私の役割
最後の親孝行なのだろう

新潟は今日も青空だった
ヤマボウシが風に揺れていた






  ※夢と現実の狭間で・・・・・

ずっと 青空だった  2

2011年06月18日 | 家族
 おはようございます
 気持ちよさそうな所で飲んでますね

声に驚き見上げると、笑顔の女性が立っていた
私の隣に座る
それがとっても自然で、何の疑問も違和感も持たせない

 どなたかご病気ですか?

 はい、父が昨日手術したので

 そうですか・・・ 大変でしたね

 ありがとうございます

その女性は手に持っていたパックの牛乳をストローですすると
ホッとしたようにため息をついた

 親が長く病気すると、自分の親なのに「もういいよ いい加減に逝ってくれ」なんて
 思っちゃうんですよね・・・・
 看護に疲れちゃうんですよ・・・・親なのにね
 で、自己嫌悪になって自分を嫌いになっちゃうんですよ

私にはまだその気持ちは解らない
じっと次の言葉を待つが、そのまま黙り込んでしまった
何か言わなきゃと思えば思うほど、私も言葉が出てこない

 父が・・・・ 今まで病気らしい病気はしたことないんですよ
 変だと思われるかもしれませんが
 なんか・・・自分の親は死なないって、思ってるんですよね
 もう歳が歳だし、頭では解っているんですけど・・・気持ちがね
 自分の親だけは死なない・・・って
 変ですよね~

あれ?私何言ってるんだろう
初めて出会った人なのに、見ず知らずの人なのに

 あ~ それ解ります解ります
 そうなんですよね 
 親は死なないって思うんですよ
 よく解りますよ 私もそう思ってました

あれ?なんだろうこの気持ち
心にあった瘡蓋が取れたような、不思議な気持ち
ぽつりぽつりと出てくる言葉に、うんうんと頷きながら聞いてくれる
涙がひと粒こぼれ落ちた

あの人は・・・誰だったのだろう
早朝の風が運んできた幻?
青空が見せてくれた夢?


ずっと 青空だった  1

2011年06月18日 | 家族
東京を出るときには、いつ雨が降り出してもおかしくなさそうな空
それが、新潟に入ると抜けるような青空だった

何にも考えていなかった
気になったのは朝のラッシュと荷物の重さだけ
6時48分 準特急
まだ7時前だというのに、身動きできないほどの人
未だに慣れないラッシュ・・・・都会の人の多さ

新幹線の窓際に座り、懐かしい風景を待つ
風にそよぐ苗 こんもりと茂る山
空を映す田んぼ

翌朝もきれいな青空だった
少し雲はあるけれど、それだって空を彩る
父に会うために病院に行く時だって
母の愚痴を聞きながら、父の笑顔を思い浮かべていた

父の手術
難しい手術ではない、手術時間は1時間半
前後の処置を入れたって2時間半
父は相変わらずニコニコと私を出迎える
手術の不安もあるだろうに、遠くから来たと私を労ってくれる
時折の冗談で、笑いあうのもいつもの事
何も変わらない一日だった・・・・はず・・・・
そう 変わらない一日だったはずなのに

手術は予定時刻を過ぎても終わらなかった
30分・・・1時間・・・2時間・・・
医師の説明は
 「癌でした」
 「臓器の一部と、周りのリンパ節をすべて切除しました」

あぁ・・・・癌だったんだ
それで手術時間が伸びたんだ
お父さん 癌だったんだ

朦朧とした意識の中
 「手術は何時に終わった?」
それが父の初めての言葉だった
もっとも父が恐れていたのは、自分が癌であること
弟を癌で亡くし、その辛さを一番間近で見ていた父だから・・・
手術時間が伸びる事は癌だったって事を知っている
嘘なんてつけない
 「うん 予定より2時間遅かったよ」
静かに目を閉じ、うなづく父
それだけで悟ったのだろう

一晩中、痛みに耐えかねて眠れない父に付き添い
迎えた朝も青空だった
カップ珈琲を買い、夜間出入り口にあったベンチに一人
両手で抱えてすすってみた

 「お父さんは大丈夫 お父さんは死なない」

その言葉だけがぐるぐると頭の中を駆け回っている
悲しくなんてなかった
だって父は死なないから