部屋の窓を開けるとたわわに実った柿の木が見える。今年は成り年だ。ヤンが生きていればニコニコして木の下をうろついていたと思う。ヤンはおかしな犬で柿が大好物だったのだ。それも熟れて甘い奴でなく、ちょっと青く固い奴をカリカリ言わせて食べていた。いくらなんでも渋いだろうと取り上げて齧ってみたことがあった。それは渋みこそ無かったが美味いものではなかった。
通常、庭の柿は成り年の翌年には僅かの柿しか成らなかった。去年は不作の年だったが、なぜかよく実っていた。最初は柿が枯れる寸前で、少しでも子孫を残そうとやけになって?実を付けたのではないかと考えていたのだ。去年の丁度今頃だったろうか。ヤンはまだ枝に飛びつくだけの元気が残っていて、下の方は自分で勝手に取っては食べていた。それを食べ尽くすと催促を始めた。庭に出た人間の前でお座りをして柿を見上げる。『あれ採って』目がそう訴えていた。
高枝バサミで枝ごと切り取り、ヘタをちぎってから噛み割って種を抜いたものを差し出すと2~3個はあっという間に食べてしまった。それから2ヵ月後の12月、容態が悪化したと聞き、ヤンの顔を見に帰ったことがある。立てなくなったと聞かされていたが、腰を持ち上げて立たせてやると普通に歩くことができた。
その時になって初めて、その年成らないはずの柿が豊作だったのはヤンの為に実を付けてくれたんだと思った。木が犬の寿命を認識するわけが無い?ヤンは柿をもらうだけじゃなかったからなぁ。ちゃんと肥料にして柿の木に還元していたから(笑)。柿の木も判ってくれたんじゃないかな。
その日ヤンと庭の中を30分ほど歩いた。長くは歩けないと聞いていたので何度も『座れ』と言ったのだが、ずっと歩いていた。あれは最後の散歩に付き合ってやろうというヤンの心遣いだった、そう今は信じている。そして、その後催促するヤンがいなくなり、上の方には春先まで木守柿が集団で残っていた。
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